「プリズン・ブレイクシーンはイマイチだけど、空前絶後の大ペテン師映画だ。」フィリップ、きみを愛してる! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
プリズン・ブレイクシーンはイマイチだけど、空前絶後の大ペテン師映画だ。
コミカルな天才詐欺師でしかもゲイという役をやらせたら、ジム・キャリーがまさにはまり役。彼のファンなら、必見の一本でしょう。ベッドシーンも体当たりでこなしていました。いやはや対した役者根性です。
そして恋人役が、ユアン・マクレガーというイケメンのヤサ男だったので、ゲイという違和感をあまり感じさせませんでした。
ストーリーは、まず主人公のスティーヴンが普通の結婚生活を営んでいるノーマルなシーンから始まります。妻と教会に行き、オルガン奏者として活躍するありふれた家族の映像。しかしスティーヴンには秘密があったのです。
ある夜のスティーヴン夫妻のごく普通のセックス。でも下半身のアップから全身のアップにパンすると、なんとまぁ、スティーヴンの相手は男ではありませんか!そうです、彼は、ゲイだったのです。この切り替わりには、大笑いしてしまいました。
ジム・キャリー作品だけに爆笑シーンも満載ですが、その側面にはスティーヴンの自分探しというテーマも潜んでいました。そのため何度かカットバックされて、彼の生い立ちが示されていきます。
スティーヴンは、赤ん坊のときに養子に出された事実を養父母から聞かされ、そのショックが癒えませんでした。警察官になったのも、その立場を利用して自分を見捨てた実母を探しあてねためだったのです。しかし、実母に詰め寄っても、冷たく門前払いを食わされのでした。
その交通事故に遭って真摯の状態のなかで「啓示」を受けたスティーヴンは、「自分に正直に生きること」を決意。ゲイであることを家族にカミングアウトして、単身フロリダへ移住します。そこでラテン系のジミーと知り合い、気ままなゲイライフを満喫するのです。けれどもジミーを喜ばすために、プレゼントのほか、高級クラブやら、フィットネス・ジムやら、レストランなど贅沢三昧。すぐに資金繰りに困ってしまいます。そこで、IQが169のすごい頭脳の持ち主だったスティーヴンは、いろいろな苦肉の策を「考案」していきます。しかし、そのどれもが詐欺行為でした。それでも彼には全く悪意はありません。きっと、潜在意識的には実母捨てられた人への仕返しとして、彼を無意識のうちに犯罪へと駆り立てたのでしょう。
その手口は、わざとスーパーの床にオイルを垂らし、転んで怪我して治療費をせしめたり、何枚ものクレジットカードの偽造して使ったり、その才能を発揮します。
一度捕まって、刑務所から脱獄した後も、医療保険管理会社の財務担当者にまんまんと就職ししまうするほどの凄腕だったのです。そこで落ち着けばよかったものの、長く努めると詐欺師の虫が騒ぎ出し、その会社の金を横領して、またまた捕まってしまいます。
テキサスの刑務所に移されたスティーヴンは、金髪で青い目をしたフィリップに一目惚れ。そこからラブコメの定番のように、ふたりの出会いと別れを綴っていきます。常識を越えたあの手この手を使って、なんとかフィリップと同房に移送させようとするところが、いじらしいのです。
自分だけが別の棟に移送させられてしまうと、釈放書類を偽造したり、一般市民や医者の服を手に入れたりして、何度も脱獄を試みる始末なのです。
ただ大胆なプリズン・ブレイクの手口を考案したスティーヴンでしたが、残念なことに中盤からテンポアップして、その華麗な手口をじっくり描き切れていません。
結局4度も試みて、そのたび逮捕されてしますが、かなりその過程を省略されてしまいます。それと詐欺師ということがフィリップにバレて、別れてしてしまったあとのふたりの関係も、かなり省略されているのです。お互いの気持ちの変化がはっきりしないことが不満として残りましたね。
そしてスティーヴンは、文字通り生命をかけた大勝負に出るのです。
脱獄後再逮捕されあげく、フィリップとは別な刑務所に収監されたスティーヴンは、突然不治の病にかかって、瀕死の状態になります。そのことを知ったフィリップは独り嗚咽します。そのピュアな思いには、見ている方も思わずもらい泣きしたものでした。ああ、これでこの話はもう終わりなのか、でも単純なストーリーだなぁと思っていたら、ありゃりゃ大違い!
スティーヴンという天才詐欺師の本領は、この瀕死の状態(同じシーンがプロローグにも登場して、伏線として彼の死期が近いことをくどいように暗示していました。)から始まります。なんという大どんでん返しでしょうか。実話に基づくものとしては、空前絶後の展開といっていいでしょう。もう開いた口が塞がらないほど、びっくり仰天させられたシーンとなりました。
天才スティーヴンがどんな大勝負に打って出たのかは、スクリーンでぜひ確認ください。
本作で印象に残るのは、冒頭とエンディングで描かれる雲です。雲は、形を変えて何にでもなれます。自由のシンボルです。それに比べて、一切の自由を拘束されてしまった主人公のスティーヴンが病室や監獄での自由を奪われたところをかぶっていきます。その対比させたシーンが凄く印象に残りました。
奇天烈な男の人生が描かれる作品でした。でも、ひっょとして監督は、見ている側の観客の固定概念をおちょくるために、ゲイの恋愛ドラマを描いたのかも知れません。
~自由な発想のために。
●実在のスティーヴン・ラッセルについて
余りにも簡単に脱獄してしまうので、90年代当時のテキサス州知事だったブッシュは困ったあげく、特殊な独房にスティーヴンを閉じ込めてしまったのだそうです。
ちなみに現在52歳になったスティーブン、テキサス州の更生施設にて144年の懲役刑を受け重罪の為独房監禁されています。そのため外部との接触もほぼ出来ない状態にあるようです。
映画が公開されるにあたってスティーブンは、刑務所内でちょっとした有名人になって看守からたまにサインを求められたりしているのだそうです。演じたジムとユアンについては正確に演じられていて心打たれたと取材した記者に語ったそうです。