「残酷な不条理への思いを上手く演じている」さまよう刃(2009) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
残酷な不条理への思いを上手く演じている
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総合:80点
ストーリー: 65
キャスト: 85
演出: 85
ビジュアル: 70
音楽: 70
寺尾聰演じる長峰の自宅の留守番電話が警察に監視もされずに野放しになっている、携帯電話を持っていても電波の発信源の探知もない、長峰と犯人の少年の二人とも長野の山奥からあっさりと警察の包囲を破り関東方面に移動できる、そんな部分には物語の弱さがある。
最後の場面で長峰が言う「彼らに課す罰は死にも値する恐怖」、そういう割には既に最初の犯人は刺殺してしまっているわけで、その意味では矛盾が生じている。そして残る一人の犯人に一度恐怖を与えたとしても、長峰が死んでしまえば犯人はその後の生涯は、いつ殺されるかもしれないという恐怖に怯えながら生きることもなく余生を過ごすこともできる。娘を殺されあれだけ苦悩しながら犯人を追跡した後で彼が言う「死にも値する恐怖」とは、長峰が生き続けることによってその後もいつ復讐のために殺されるかもしれないというものを長い期間にわたって犯人に与えるのではなく、逮捕される前のほんの一瞬銃を突きつけることだけで良かったのだろうか。
銃をつきつけあっていて自分たちが銃撃戦に巻き込まれるかもしれないのに、野次馬が逃げもせずに輪になって見学しているのもおかしい。そのような疑問もいくつか物語にはあった。
それでも、最初から結論ありきで方向性を示すのではなく司法制度の不条理に関する問題提起をしたこと、たった一人の最愛の家族を極めて残忍な形で失った父親の悲しみと、それを見事に演じた寺尾聰の演技に共感出来た。だからその重い喪失感、悲しみ、怒りが理屈以上に伝わってきて、十分に堪能出来た。
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