劇場公開日 2009年5月1日

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「カンフーのないジャッキーなんて、物足りなさはぬぐえませんでしたが、シリアスな演技には納得。不法移民を描くバイオレンス作品としては、新宿を舞台によく描かれていたと思います。」新宿インシデント 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0カンフーのないジャッキーなんて、物足りなさはぬぐえませんでしたが、シリアスな演技には納得。不法移民を描くバイオレンス作品としては、新宿を舞台によく描かれていたと思います。

2009年4月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

  ジャッキー・チェンは、常々アジアの映画は、アジア諸国同士の協力体制がなければハリウッド映画に飲み込まれると言い続け、アジア映画のレベルアップを第一に、今回自らプロデューサーとしてアジア人のアジア人によるアジア人のための映画を製作を目指してきたそうです。
 そのアジアン・プロジェクト第1回作品となるのが本作です。

 世界一の歓楽街、新宿・歌舞伎町。わずか500メートル四方のこの町には、日本のヤクザばかりか、中国、台湾をはじめ中東までのアジア各国、南米のマフィア組織が集まり、うごめき、予測のできない黒社会が築きあげられてきました。
 そして、この歌舞伎町を舞台に、アジア全ての映画賞を獲得したいと、ジャッキー・チェンが渾身の演技で新境地に挑んだのです。

 実は、全く新たな役柄に挑戦したことについて、ジャッキーにも不安があったようです。プレス資料で「この作品で、僕は初めて黒社会の人間を演じ、初めて人を殺し、初めて女遊びもする。・・・鉄頭という役柄を受け入れてもらえるかどうか、いろいろ考えた。俳優
として、もしマーケットだけを考えたのなら、僕はこの役はやらなかったと思う。」と答えていました。
 それでも挑戦してみようと思ったわけは、「この映画に出だのは、俳優としてアーティストとして、新しい自分に挑戦しようと思ったから。また、観客にも挑戦しようと考えたから。」と述べています。

 実際に本作の中でのジャッキーは、カンフーアクションを一切見せないのです。しかも敵には果敢に向かっていくものの、そんなに強くなく、ラストでは逃げ惑うのです。
 あとジャッキーは常に正義の味方でしたが、今回の鉄頭というキャラは、日本に不法入国して、ありとあらゆる不法な商売に手を染めます。そんなダーティハリーでヨワッチィ姿を見せつけられる今までのジャッキーのファンは、愕然とすることでしょう。ハッピーエンドとは言い難い、哀愁に満ちたラストシーンも余りないことです。

 今までも、時々シリアスな演技に取り組んだことはありますが、本作では今まで見たことがないジャッキーを見ることが出来ました。

 アジアに目を向けたとき、彼が選んだ舞台は、東京・新宿。香港映画のスタッフが新宿を写すと、新宿の風景が香港の街角に見えてくるから不思議です。
 中国の貧しい東北部に生まれ育った鉄頭は、日本へ行ったきり音信不通になった恋人を探して密入国します。やっと見つけた彼女はヤクザの幹部の妻に。鉄頭と元彼女との間の関係は、もっとねちっこく波乱を生んだ方が面白かったのではと思いました。

 土地感もない異邦人の彼は、歌舞伎町で出会った同郷の不法滞在者の仲間と共に、最底辺の仕事をこなしながら日々の暮らしをしのいでいきます。
 人生の3割は運命と諦めるにしても、残りの7割は戦って勝ち取るしかないと思い定めた彼は、日本に残り、仲間と共に新宿で生き抜いてゆく決意を固めます。ここで不法滞在者のしのぎ方が、一通り披露されます。なかでも鉄頭の仲間が万引きするくだりには、カチンときました。日本人は、盗まれるとは思っていないとと店頭から堂々とゴルフバッグをくすねていくシーンは、チョット日本人をバカにしているのでは?

 そして新参者が新宿で裏家業に精を出すとき、日本のヤクザ、それに中国マフィアから
の圧迫という恐怖に常に苛まれながらの毎日となります。
 中国マフィアは凄惨を極めて、目を覆いたくなるよなリンチシーンもありました。

 新宿を取り仕切るようになった組長と手を組むことで、鉄頭の不法移民の集団達は、新宿を仕切る権力を持つまでになります。そして鉄頭は黒社会の実力者となってゆきます。 物語は、実力者にのし上がった後の方が盛り上がっていきます。
 しかし、新宿の仕切りを任せた仲間たちは、いつしか麻薬や殺人が日常茶飯事のヤクザの世界に足を踏みいれ、日本のヤクザの抗争に巻き込まれていきます。
 堅気の事業に専念していた鉄頭は、仲間たちを破滅から救うために、彼らのアジトに命がけで乗り込んでいくストーリーでした。

 アウトローの聖地といわれる新宿。多国籍の歌舞伎町を舞台に、ギリギリの中で懸命に生きる人間たちの欲望・葛藤、立場をこえた愛と絆。エネルギッシュな裏社会の抗争と愛憎のダイナミックな人間ドラマです。

 日本からも多数俳優が出演していますが、中でも片言の中国語が話せることで、鉄頭の理解者となるマル暴担当北野刑事の竹中直人が印象的でした。
 竹中のグッと押さえたリアクションと人情味をたたえた語り口は、主役の鉄頭を一段と引き立てた演技で特筆ものと思います。

 カンフーのないジャッキーなんて、物足りなさはぬぐえませんでしたが、シリアスな演技には納得。不法移民を描くバイオレンス作品としては、新宿を舞台によく描かれていたと思います。

流山の小地蔵