「祖国と父への想いが相俟った強烈なラストシーンに…」カティンの森 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
祖国と父への想いが相俟った強烈なラストシーンに…
縁あって、原作本に触れ、
この映画を再鑑賞した。
しかし、タイトルは同じでも、
両者の構成はかなり異なるものだった。
この映画では、
犠牲になった兵士の家族が多く登場し、
その関係や各挿話の役割も入れ替えていた。
また、ウエイト高く描かれる兵士達の
虐殺まで経過は、
原作では、終盤における大尉の手帳の記述で
ようやく語られるだけだ。
そして、カティンで殺害される大尉の
母・妻・娘それぞれの、
息子・夫・父への想いに
原作ではウエイトを置いていたが、
この映画では、例えば、
酷い虐殺を強調する手段として、
カティンで処刑される一員としての大将や
他の犠牲者の家族の場面を増やし、
事件そのものをあからさまにすることに
力点があったような気がした。
また、他の作品でも繰り返し描いてきた
ワイダ監督の作品同様、
大国に蹂躙されてきた祖国への想いは、
校長である姉の科白、
「自由なポーランドはあり得ない」や、
取り調べを受けるその妹の言葉、
「私はどこの国にいるの、
ここはポーランド?」
に凝縮していたようにも思え、印象的。
言葉では言い尽くせないような、
それこそ息苦しくなるような処刑シーンは、
これまでも残虐な映像は様々な映画で
私もそれなりに観てきた思いがあるが、
これほど強烈な描写は
経験が無かったような気がする。
それ程、ワイダ監督の、
祖国と父への想いが相俟った、
犯罪者への強い糾弾への意思が
凝縮されていたのだろう。
この作品、その鮮烈で残虐なラストシーンで
唐突に終わり、
残された家族の描写に立ち戻ることもなく、
以前の鑑賞でも、
映画としての唐突感が拭えなかったが、
しかし、この強烈さ故に、
これに代わる終え方も難しかったであろうと
この再鑑賞で感じたことだった。
ただ、それでも、
監督の想いはあのラストシーンで
充分だったはずにも関わらず、
原作以上に、
観る側には関係が判りづらい登場人物の
エピソードを増やすなどの
間口を広げ過ぎた結果、
少しまとまりに欠けてしまったように
感じる鑑賞でもあった。