劇場公開日 2009年3月28日

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「ルール無用のバトル・インタビュー」フロスト×ニクソン こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ルール無用のバトル・インタビュー

2009年4月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

この作品、はじまってからしばらくは、どうにもとっつきにくい、もどかしいものを感じていた。それは、登場人物の誰もが功名心の固まりばかりで、自分のことしか考えない、どうにも共感できない者ばかりだからだ。

ただ、その中でひときわ目を引くのが、ニクソン元大統領だ。以前、オリバー・ストーン監督の映画「ニクソン」の中心で登場してはいたが、あの作品でのニクソンは、監督が人間的なものを描こうとしてみせて逆に演出が空回りしてしまい、表面的なものしか見せられていなかった。しかし、こちらの作品のニクソンは、もういちど政治の表舞台へ上りたいという思いの強さを見せながら、陰湿さと強欲さ、そして人への不信感を如実に見せる、元大統領の人間的なものを痛烈に描いてみせている。ニクソンを演じたランジエラの名優ぶりが、この作品に重厚感をもたせている。

ラストの30分、それまでニクソンに振り回されていたフロストが、一気に攻勢に出て、ついに元大統領ではなく、犯罪者としてニクソンを追い詰めていく過程は、この作品の最大の見どころだ。そこには、「ルール無用」に相手の懐に「言葉」の凶器をもって入り込もうとする両者のセリフの応酬による、人間性をすべてさらけだした丁々発止の戦いを見せていて、観客の心をゾクゾクさせる。

ただ、見終わってみて、日本の政治家のインタビュー番組に、これほどゾクゾクさせるものがないことに少し幻滅してしまう。それだけ、日本のテレビ番組の司会者に頭の鋭い人間がいないのか、それとも政治家に魅力がないのか、いずれにしても日本では考えられない作品であることは間違いないだけに、観賞することじたいが貴重なもののように思う。

こもねこ