U2 3D : 映画評論・批評
2009年3月3日更新
2009年3月7日より新宿バルト9ほかにてロードショー
この映画の音と映像のギャップについてボノはどう思うだろうか
映画ファンから見れば3Dでの上映なんて邪道でもあるわけだが、ここまで3D技術が進歩して来ると、いよいよそうも言ってられないんじゃないかと思う。何せ、この映画では、本当に目の前でボノが歌う。まるで「私」のためだけにその歌が歌われているような、そんな気分になる。だからそれは映画じゃないと言ってしまえばそうなのだけど、コンサートに行ったのとはまったく違うこの感覚。あんな近距離で面と向かって「他者との共存」を説かれたら、そりゃあ誰だって説得されようというもの。
しかしだからこそ、そこには危険もはらんでいる。とくにU2のように、歌と彼らの政治的なメッセージとその活動が一体になって見えてくるようなバンドの場合、彼らの言葉と音と活動を冷静に見る視線が必要となるはずだ。それこそ「映画」の役割でもあるわけだから、この3D技術の進歩を映画関係者はより真剣に考える必要があるだろう。
ちなみにこの映画の音は、おそらく「コンサート会場にいるような感じ」を目安に作られたものだろう。だから共にU2のライブを見ていると想定される観客たちの声もかなりのボリュームで聴こえて来るのだが、一方で映像の方はまるで「私」の部屋にU2が出張演奏してくれているような状態なのだ。このギャップ。「他者との共存」を説くボノは、一体これをどう思うだろう。
(樋口泰人)