「パンドラの箱のような映画」セントアンナの奇跡 まゆまゆさんの映画レビュー(感想・評価)
パンドラの箱のような映画
eiga.comさんの独占試写会で観ました。
深いです!重いです!でも、とても考えさせられるし、後から考えれば考えるほど好きになる映画。ハリポタのように観て笑ってさっぱり楽しい、という映画ではありません。メッセージ性の強い映画なので、観終わってからもかなり頭に残っていろいろ考えてしまいました。
一言で表すなら、パンドラの箱のような映画だと思います。
戦争、虐殺、差別、寂しさ、思い込み、神はいるのか、など、この映画では死と悲惨と問題提起が押し寄せてきます。とても考えさせられます。
人が殺されるシーンは非常に生々しく、R15指定も納得です。私は、観ただけで戦争への憎しみが沸き上がってきました。あんな殺し合いの中で、さらにスパイク・リー監督の主題である黒人差別問題が絡んできて…泥沼です。
映画を観た直後はそういうわかりやすく提示されているテーマが心に残っていたんですが、あとから思い返して反芻して考えてみると、この映画は他にもいろいろな問題を提示していることに気づきました。
例えば、元説教師だったビショップが「神を信じるか?」という問いに対して「説教をしてるときはな。でも、すぐにだめになる。神様が俺たちを無傷で戦争から帰らせてくれるのか?」というニュアンスのこと(うろ覚えですが…)という言葉。この言葉は、実際に悲惨な殺し合いの中に投げ入れられている弱い一人の人間からの言葉として非常に重みのあるものだと思います。これに対して、何度も出てくる人々の祈りのシーン、人々が喜び、祈る場所としての教会、ひとときの幸せのモチーフ。それが、セントアンナの虐殺でまさに殺戮の舞台になることは皮肉として鮮烈に描かれているのではないでしょうか。
また、村で出会う女性の夫が帰らない寂しさとゆがみ。夫への操を守りきることもできず、しかも本当に好意を持っている人ではない男性に身を投げ出すこの女性も、人の弱さを体現していると思いました。この女性はしかも、父に半分支配され続けているのです。その父はファシストであることが誇り。彼の信じているのはファシズムでありムッソリーニなのです。村にドイツ兵が襲撃してきて村人が「排除」されていくとき、その父は助けてもらえると思い、「私はファシストです!」と敬礼して飛び出した瞬間、ドイツ兵に撃たれました。一人の老人が、自分の信じてきたものから最後の最後に裏切られて、信じてきたものが何の意味も持たなくなったばかりか、その信じてきたものに殺されるのです。戦争によって、人々の生活が、信念が、家族が、生きてきた足跡全てが否定されていくのがこの映画の実直なまでの悲惨さなのです。
しかし、エンディングではパンドラの箱の底に残っていた希望のように、たった一つの希望がきらめきます。実は映画冒頭の過去の話にさかのぼる前のところからエンディングは読めてしまうような作りなのですが、「巧く面白くする」ことではなく、本当に伝えたいことにフォーカスしていく映画だと思うので、全然問題ないと思っています。展開がわかってても、やっぱり最後は泣いてしまいました。
テーマ性の高い作品、社会問題や戦争を扱った作品が気になる方には強くお奨めします!