「現実と向き合う若者の苦悩」シェルブールの雨傘 吹雪まんじゅうさんの映画レビュー(感想・評価)
現実と向き合う若者の苦悩
全編歌唱によるセリフという珍しい手法のミュージカル映画。そして、それ以上に脚本について賛否が渦巻くなかなかのクセ強映画です。
冒頭、上空からのアングルで画面を横切るカラフルな傘達を映すという、なんともオシャレで可愛らしいオープニング。もうこの時点で心を鷲掴みにされてしまいますね。その後も街の景観、衣装など、色彩にこだわりを感じさせる映像は、見ていて心踊らされてしまいます。ティーセットめっちゃ可愛い!欲しい!
カトリーヌ・ドヌーヴ始め、俳優陣が美男美女ばかりで画面が非常に華やか。そして、小鳥のさえずりの如く紡ぎ出されるメロディーに酔いしれる。あ、歌は吹き替えなのね。なるほどなるほど。
ストーリーは戦時下のカップルのすれ違いを描いたもの。とりわけ珍しくもないかな?…と、思っていたら!なんとまぁ、なかなかのとんでも展開。
まず、ジュヌヴィエーヴの心変わりですよね。確かに唐突な印象で「え?場面飛んだ?ディレクターズカット?」と思ってしまった程。時代も違えば国も違う。価値観、恋愛観の相違による違和感なのかと思ったものの、確かに彼氏が2年も戦地から帰って来ないのが分かってて、手紙もろくに送ってこない、内容も自分のことを思ってくれているのか微妙な感じだったら…まぁ…ああなるか…?
さらに、目の前に現れた金持ちイケメンに王冠👑被せられて「聖母子像のマリア様そっくりだ」なんて言われてまんざらでもなかったのでは…?そして「これを断るのはバカよ。だから辛いの。」と、意外と客観的に置かれた状況を考えているんだなぁと感心したりしました。若いなりに葛藤はあった。それだけで私は充分納得できました。
そしてそして、ラストシーン。感傷的な音楽が流れる再会と別れのシーンですが、日本語訳がおかしいだかなんだかで物議を醸しているようですね…。ですが、調べる余裕もないので率直な感想を言うと、まぁ、特に違和感は無かったかなぁと。お互いに既に家庭を持っているわけですし、あそこで愛し合っていた過去を思い出して何か言い訳じみたセリフを言うより、素っ気ない感じで別れたほうが前向きで現実的だし、子供の名前だけで充分思いは伝わるんじゃないかな、と思いました。これが「嵐が丘」のヒースクリフだったら、ジュヌヴィエーヴの旦那さん殺して娘を誘拐してるんじゃないかと思うんですが、そうならなくて良かったです。
長々と綴ってしまいましたが、なんとも味わい深い作品でした。