「シェルブールの雨傘 ~ それぞれに掴んだ幸せ」シェルブールの雨傘 細谷久行さんの映画レビュー(感想・評価)
シェルブールの雨傘 ~ それぞれに掴んだ幸せ
この映画の大きな特徴は全編を通して流れるミシェル・ルグランの甘美で抒情的かつ、流麗だが、やや荘重な音楽にすべてのセリフがそれに絶妙に乗る、極めて異例な音楽劇であること、それが非アメリカ的で観る者の心に抵抗なく滑り込んでくることとである。さらに当時、はたちくらいのジュヌヴィエーブ ( ドヌーブ ) の瑞々しく、やや幼さの残る初々しさにも注目してよい。余談だが後にギィと結婚するマドレーヌにこそドヌーブを凌ぐ大人の魅力が垣間見られる。もう一つ注目していただきたいことは映像処理の見事さである。ピンクや赤 ( 場面によっては薄いブルー ) を主に淡くソフトな色調を押し通し、それがこの映画の華美と他に類を見ない魅惑的な叙情の流れに寄与している。
ストーリーは "すれ違いの恋愛劇”に部類すると思うが、恋愛には、優しさ、理解、思いやりが必要であること、また月並みだがいくら狂おしい恋愛も将来の経済的後ろ盾が必要であることを物語っている。だからドヌーブも熱愛してはいるが、一介の自動車修理工に過ぎず、徴兵されて今現在の生死も分からぬギィに捨てきれぬ思いがあっても、ギィの子を宿していることを承知の上で、それでもなおプロポーズする裕福な宝石商に同意する。これが真っ当な現実であることもこの映画は物語っている。さて無事復員したギィは、これにがっかりするが、失意を乗り越えて、おばの遺産と金策して得た資金を元手にガソリスタンドのオーナーになり、かねてからの幼なじみのマドレーヌと結婚し、一児をもうける。これもマドレーヌの当然の選択である。ただガソリンスタンドでの別れのシーンでドヌーブの表情や話しぶりがやや空ろなのは何故か。
” シェルブール...”は、こうして幸せをつかんだ二組のカップルをそれぞれに描き分ける。