「移民社会アメリカ」グラン・トリノ ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
移民社会アメリカ
ウォルトは朝鮮戦争の退役軍人でポーランド系移民の子孫である。デトロイトの自動車産業で組立工として働き、右肩上がりの絶頂期を謳歌し、定年まで勤め上げた。しかし、日本の安価な自動車がアメリカで売れ始めると、アメリカの自動車産業は衰退していき、デトロイトから工場が撤退し多くの失業者が生まれた。産業がなくなった都市からは人がどんどん出ていき、逆に非白人の低所得層が流入してきたが、ウォルトは土地を離れない。
タオのルーツであるモン族とはヴェトナム戦争時にアメリカが軍事的に利用したラオスの山岳民族である。アメリカがヴェトナムから撤退した後、ラオスは北軍に占領され、モン族は迫害されたため、アメリカに逃げ込んできた。
そんな背景があって出会ったウォルトとタオであるが、ウォルトはアジア人に対して最初は偏見にまみれていたものの、モン族との心の交流を通して人としての温かさを感じようになり、やがて気持ちが変化していく。また、朝鮮戦争で若い朝鮮人を殺したことをトラウマとして抱えていたが、その贖罪感情からタオの教育係となって父親のように見守るようになる。
アメリカは人口増加を続けていくと、白人と有色人種の人口比は逆転するといわれている。建国者としての白人が少数派になるのはもはや時間の問題である。いつまでも多人種や他民族を認めないという姿勢は通用しないだろう。そこに立ちはだかる壁は打ち壊し、アメリカの精神を継承していかなくてはいけないというメッセージがこの映画から感じられた。
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