「圧倒的」ミスター・ノーバディ mozuさんの映画レビュー(感想・評価)
圧倒的
見終わった後は、とにかく呆然。
すごい映画を観たことは分かるのだけど、どう凄くてどこに感動したのか、自分でもうまく説明できない。でも感動した。哲学的な要素もあり、難解ではあるけれど、なんだか解ったような気もする。見終わった後にこんな不思議な気持ちになりながらも、同時になんとも言えない幸福感を得られる映画はそう無いのでは無いでしょうか。
人間誰しもある、「あそこでああしていたら……」がパラレルワールド的に展開されていくSF映画。これだけ見ると類似の設定の映画がいくつか思い浮かびますが、この映画の手法は、まさに圧巻です。無数に枝分かれしていく人生と、それぞれのニモの選択と、三人の女性に、それぞれの物語。どの人生も悲壮な展開を見せ、その度にまたある場所ある時間からの人生をやり直し、また終わる。数多くのニモたちがいて、それでも混乱を見せず巧みに描ききった監督の手腕に終始圧倒されました。主演のジャレッド・レトの、老人ニモは言わずもがな、サラリーマンから学者(?)、はてはプールの清掃員まで違和感なく演じきることのできる不思議な存在感も、それを助けているように思いました。あの綺麗な色の目、本当に引き込まれます。加えてニモたちの子供時代を演じる子どもたちの可愛いこと!あのなんともいえない幸福な時間の描写が、また素敵なんですよね。
最後は乱暴に言えば投げっぱなし、観た人に解釈を託すような終わり方なので、映画にすかっとした明快さを求める人にはお勧めしにくい部分もありますが、それでも、最後に笑ったニモ老人と畳み掛けるように展開する映像。別れ道を「選択しない」ことで新たに開かれる道。見終わった後の不思議な幸福感を是非味わって欲しいと思います。