「スパイ映画のパロディ? セレブ族へのブラックジョーク? 焦点定まらずコーエン兄弟には珍しいハズレ作」バーン・アフター・リーディング 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
スパイ映画のパロディ? セレブ族へのブラックジョーク? 焦点定まらずコーエン兄弟には珍しいハズレ作
コーエン兄弟というと、ついつい大傑作を期待してしまう。それだけいい作品が多いからだが、本作は…。
いい俳優を揃えて、すべて好演。シナリオも意外性と悪意とユーモアに満ちて面白い。ただ、俳優や設定の面白さに引きずられてしまった感じで、重心が散漫で作品自体の面白さには繋がらなかった。
具体的には、冒頭、CIA上層部のマルコビッチが颯爽と本部の廊下を歩き、上司の部屋でアル中であることを理由に左遷を宣告されるシーン。彼が突然、コミカルなセリフ回しと大袈裟な身振りで、同席したCIAのお偉いサン全員を罵倒するのを見ると、これはスパイ映画のパロディか何かかと思わされる。
クビになった彼は自宅で早速酒を飲み始めるが、そこに帰宅した妻は医師。その夜はホームパーティで、集まってくるのは国務省勤務のクルーニーと人気童話作家のカップルとか、いわゆるセレブたちだが、クルーニーは女医と不倫している。ははあ、今度はセレブたちの乱れたプライベートに対するブラックジョークか。
ところが、次にはマクドーマンド扮するスポーツジム職員が、いい年齢食ってるのに美容整形して出会い系サービスでいい男を捕まえたいと思っている。するとそこに登場するお相手がクルーニーで、今度は出会い系サービスにのめり込む人々への揶揄になる。
やがて、マクドーマンドとB・ピットがタッグでマルコビッチを強請り、失敗したらロシア大使館に駆け込む。その都度、振り回されるCIAは「どうなってるんだ?」と頭を抱える…というふうに個々のエピソードは悪くないのだが、どれも中途半端で、それぞれの面白さを十分引き出す前にピットは死ぬわ、マルコビッチはお役御免になるわで、最終的に「どの素材も面白くなりそうだ」と思っているうちに終わってしまうのである。本当に面白くなる前にw
なお個人的には、CIA幹部たちが振り回され頭を悩ませるシーンがもっと見たかったのと、ピットの間抜け男ぶりをもう少し生かして欲しかった。