バーン・アフター・リーディング : 映画評論・批評
2009年4月28日更新
2009年4月24日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー
ここは乱戦ロータリー。毒と才気と悪趣味がフル回転だ
車の出入口が5カ所ほどあるロータリーを連想させる映画だ。ぐるぐるぐるぐる。入ってきた車と出ていく車が交錯し、出ようにも出られぬ車がむなしく周回を繰り返すロータリー。よく衝突しないものだ、と感心していると、あにはからんや、派手な衝突はやはり避けがたいようだ。ぐるぐるがしゃん。
最初にロータリーへ入り込むのはCIA職員のオズボーン・コックス(ジョン・マルコビッチ)だ。ひどい性格のひどい名前の男だと思って見ていると、つぎに入ってくるハリー・ファーラー(ジョージ・クルーニー)も負けず劣らずにひどい。ハリーはオズボーンの妻ケイティ(ティルダ・スウィントン)の愛人で、スポーツジム・インストラクターのリンダ・リツキー(フランシス・マクドーマンド)とも出会い系サイトを通じて知り合う。リンダは、怪しげなディスクを拾った同僚のチャド・フェルドハイマー(ブラッド・ピット)と組んでオズボーンを脅迫し……。
松本清張の公金横領小説でも、これほどサイテーの登場人物がそろうことは珍しい。コーエン兄弟は、持ち前の毒と才気と悪趣味を存分にあふれさせ、96分間の上映時間を突っ走る。いやもう、その馬鹿なこと、おかしなこと、速いこと、滑ること。妙な名前の馬鹿者どもが激しくもつれ合えば、もちろん大乱戦がはじまる。やりすぎの展開や作りすぎの性格設定やあくどすぎる味つけは、すべて確信犯の産物だ。笑えるか笑えないかは見る人次第だろうが、私は腹の皮をよじらせた。「バーン・アフター・リーディング(読後焼却)」とは、実は観客に対するメッセージだったのか。コーエン兄弟監督、クルーニー主演の「アホバカ3部作」は、これにてめでたく完結したようだ。いや、それとも?
(芝山幹郎)