「一度目で意外な展開に驚かされ、二度目で納得・感動させられ、複数回楽しめる美味しい映画です」パッセンジャーズ Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
一度目で意外な展開に驚かされ、二度目で納得・感動させられ、複数回楽しめる美味しい映画です
ロドリゴ・ガルシア監督(愛する人等)による2008年製作のアメリカ映画。
原題:Passengers、配給:ショウゲート。
最後の方まで全くこの展開は読めず、ただただビックリで、もう一度見直してみる展開となった。再見してみて、成程よく出来た、ヒトの本質的な希望を浮き彫りにした温かみを感じさせるストーリーの映画と感心させられた。
溝口監督の雨月物語という傑作映画を思い出した。あれは恋愛も知らずに死んでしまったお姫様が死にきれず幽霊となって、生きている男の主人公と関係を結ぶものであった。こちらは、心理学等学問ばかりの堅物で恋愛にも仕事にも臆病なアン・ハサウェイ演ずる女性が飛行機事故で亡くなったが、魂?は死にきれず、両方を体験しようとする物語であった。恋愛相手パトリック・ウィルソンも含めて、登場する人物すべてが既に死んでいる人間というのが、画期的というか大きな驚きの脚本であった。
ハサウエイが事故後の心理的カウンセリングを行い、恋のお相手でもあるウィルソンは証券会社に勤める仕事人間(部長)。ずっと絵を描きたいと思っていたがそれも叶わず飛行機事故で亡くなってしまう。その残念さゆえか、彼はハサウエイ訪問時に絵を描いていた。壁いっぱいに貼られた紙に、楽しそうに青い絵の具を塗りつける姿が何とも微笑ましい。
彼はハサウエイを積極的にくどいて、2人ともヘルメット無しでバイクに彼女を乗せて走行、更に夜の冬の海へボートを出す。ウイルソンは海の中へ飛び込んだが浮かび上がらず、心配したハサウエイも飛び込み、水の中で抱擁し、その日2人は結ばれる。再視聴で、ヘルメット無しや、冬の冷たい水中での抱擁に、きちんとヒントを示していたなと、納得がいく。
ハサウエイは、職業人として未熟なため上手くいかない部分もあるが、カウンセリングの仕事にとても熱心に取り組む。その美しさにはウイルソンでなくても目を奪われるが、男性に対しての臆病さ、カウンセリング相手と一線を超えてしまったと恩師に懺悔する等、生真面目さが上手く表現されていた。バットマンやアリス映画での彼女とは全く異なるタイプの主人公がそこにいて、素晴らしい女優だと再認識させられた。
また、再見で初めて気がついたが、身につけている衣装は喪服の様な黒基調のものばかり。それがまた、とても似合い、目や口が大きすぎて正統派美人とは思えない彼女の美しさをとても良く引き立てていた。
ウイルソンが自分の状態に気が付いていくプロセスは、実に興味深く描かれていた。何度も登場するイヌは、昔飼っていて死んだイヌにそっくり。高いところから飛び降りてもへっちゃら。道に飛び出しても、車は衝突寸前に止まり。半信半疑で、線路上に出てみても列車は彼を跳ね飛ばさない。それで、ようやく彼は自分が死んでしまっていたことに気づく。そして、思い出す。墜落した飛行機の隣席にハサウエイが座っていて、楽しく会話して姉妹の存在も聞いていて、再会の約束をしたことを。こうして、2人は死後に再会することになった。
何とも切ない展開で、2人の思いに心をうたれる。
ハサウエイは心残りだった恋愛と仕事両方を体験でき、かなり安心して?旅立てわけであるが、ずっと気にしていた姉との仲違いの解消は、死んでしまったヒトと生きている人間は交流出来ないというお約束ごと?のために、果たせなかった。映画はラスト、姉が彼女の部屋で、残っていた手紙を読むことで、その仲違いを解消する。とても優しい気遣いの有る優れた脚本と感嘆・感動させられた。
製作ケリー・セリグ、マシュー・ローズ ジャド・ペイン、ジュリー・リン、製作総指揮ジョー・ドレイク、ネイサン・カヘイン。
脚本ロニー・クリステンセン(ドクター・エクソシスト等)、撮影イゴール・ジャデュー=リロ。
美術デビッド・ブリスビン、編集トム・ノーブル、音楽エド・シェアマー。
アン・ハサウェイ(クレア・サマーズ)、パトリック・ウィルソン(エリック・クラーク)、デビッド・モース(アーキン)、アンドレ・ブラウ(アーペリー)、クレア・デュバル(シャノン)、ダイアン・ウィースト(トニ)。