釣りキチ三平 : 映画評論・批評
2009年3月10日更新
2009年3月20日より丸の内TOEI1ほかにてロードショー
惜しいかな、コミカルなドラマとVFXのバランスが悪い
「おくりびと」の滝田洋二郎監督の、図らずも“オスカー受賞後の初監督”となった作品。須賀健太が「ALWAYS 三丁目の夕日」と同様にマンガから抜け出た三平を、おなじみの笑顔と泣き顔で好演している。といっても、矢口高雄の原作は四半世紀前に連載が終了したマンガであり、終映まで「なぜ、この映画化を?」という疑問は解けなかった。
現代的に物語を醸造するためにオリジナルキャラとして加えられたのが三平の姉(香椎由宇)で、前作「おくりびと」の広末涼子的存在として、三平に葛藤のタネをまく役柄を担っている。香椎は、マンガ的な他のキャストとは異質な存在感を放っていて、いい表情をしているのだが、彼女の存在を通して浮かび上がるのが、自然礼讃と都会批判という手垢のついたテーマでは、前作の感動に遠く及ばない。
もちろん白組によるVFXは、フライフィッシングの釣り糸まで視認出来るなど、かなりいい仕事をしている。飛び回るトンボの眼となるカメラワークも楽しい。だが、ピチピチと動く魚を見るたびに「またCGか」と気持ちが萎えてしまうのだ。「釣りバカ日誌」と大差ないコミカルなドラマ部分と、VFXのバランスが悪いのがその要因だろう。
特に今回はキモとなるフィッシングシーンでのVFX多用が目立つ。滝田監督は、林遣都が投げ込むストレートボール(「バッテリー」)、本木雅弘による様式美ある納棺の所作(「おくりびと」)など、近作ではキーとなるショットを上手く感動のツボに仕立て上げていたが、今回は“感動”を釣り上げることが出来なかったようだ。アカデミー賞監督の次回作に期待したい。
(サトウムツオ)