「曇った日に凛と咲いている花を見ているよう」ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ きのこの日さんの映画レビュー(感想・評価)
曇った日に凛と咲いている花を見ているよう
言わずと知れた太宰治の名作。
売れない作家の大谷を支え続けた妻、佐知の話。
したたかで美しい女性の映画だった。
ストーリーはつまりがどうしようもないダメ男を妻が支え続けるというもので。
佐知は明るくしたたかでまっすぐで、最高の奥さんだけれどもそれゆえに大谷は苦しくなる。
浮気をするけれど佐知に思いを寄せる男のことは気になる。
一見すると、大谷の心のバランスの悪さとかばかりが目についてしまうけれど、きっとお互いに依存している夫婦の話だったように思う。
佐知はきっと大谷を待つ自分、大谷を好きな自分、大谷を支えている自分、それによって自分自身をささえていたのかなぁなんて思ったりもしました。
それは男性を妻が支える時代だったからなのかは分からないけれど、「夫婦愛」という言葉ではくくれないような二人のアンバランスな心の関係が描かれた作品のように思いました。
まーほんで何が素晴らしかというととにかく松たか子。浅野忠信も、見事にダメ男ぶりを演じきっているんだけれど、松たか子の演技が秀逸!松たか子がいかに素晴らしい女優さんかということを改めて思い知った作品。
どこまでもまっすぐに大谷を支え続ける佐知。
まっすぐな女性は時に女性の目から疎ましく見えてしまうものだけれど、一切それがなかった。
なんかこう、まっすぐすぎるとうっとーしいというか。それが無かった。
非常に印象的なシーン2つ。
1.佐知が初めてチップをもらうシーン。
チップをもらった彼女はあっけらかんと
「わたし、お金になるんですね」
という。
その言葉の嫌みのなさが凄い。
嫌みなく演じた松たか子が素晴らしい。
あ、そう思ったんだな、とだけ思うまっすぐな一言。
その一言と表情で、佐知という女性のすべてがわかるような一発だった。名演技。
2.佐知が堤真一演じる弁護士さんのもとに向かうシーン。
とある決意をして彼のもとに向かう佐知は、口紅を買う。
その口紅を塗るシーンがまー、なんとも言えない。
大谷を助けるために女性であるという武器を使う決意をし、向かう彼女。
この映画の中でいっちばん松たか子が魅力的なシーンでした。
あとで気づいたけど監督さんがサイドカーに犬の人と一緒でした。言われてみれば空気感がにている。
話の盛り上がり??はあんまりないので物足りなく感じるひともいるかもしれませんが、個々の俳優さんの名演技が光る作品です。脇役まで全員素晴らしい!
個人的には広末涼子があんまり好きじゃないけど、今回の役どころは良かったような気がする。かもしれない。
最後のね、シーンも素敵です。なんか、「うん、うん、それでいいよ、うん」ってなる感じ。
晴れても無い、雨でもない。そんな日に咲いてる花を見ているような、そんな映画でした。