劇場公開日 2010年3月19日

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「まぁまぁ肩肘張らずにアトラクションムービーとしてみれば、楽しい作品ですよ。」ダレン・シャン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0まぁまぁ肩肘張らずにアトラクションムービーとしてみれば、楽しい作品ですよ。

2010年3月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 またパンパイアの話なの?とテーマ的には食傷気味になるくらい、このネタの作品が増えてきています。
 ただ「ハーフ・バンパイア」という合の子という概念は、今までなかったでしょう。その結果、昼間でも活動できるし、人の血を吸わなくても何とか凌いでいけるというこれまでにないバンパイアが誕生しました。突っ込みどころは多々ありますが、肩肘張らずにアトラクションムービーとしてみれば、楽しい作品ですよ。

 すごく共感出来る部分として主人公の少年ダレン・シャンは、自らの宿命に苦悩し成長する等身大ヒーローとして描かれて、感情移入しやすい存在なのです。

 これまでの恐怖をテーマにしたバンパイア作品と違って、友情と宿命という二つのテーマがやがて絡み出し、相克しあい、そこに善悪の対決が浮き彫りにされていくというストーリー性がウリになっている作品でした。
 そのため子どものみならず大人をもトリコにしてしまう要素がタップリと詰め込まれているのです。
 例えばハーフ・バンパイアとして生きることを選んだゆえに迫る、愛する家族との別れ。あこがれていたバンパイアになったことを嫉妬されたことから、崩れそうになる親友スティーブとの友情。身を置くことになったサーカス団"シルク・ド・フリーク"で出会う、ヒゲ女、ヘビ青年、狼男といった新たな仲間とはぐくむ絆。悪の吸血鬼一派"バンパニーズ"に引き合わせようとする謎の男ミスター・タイニーの出現…。
 2時間の展開のなかで、次々と新たな要素が登場するので飽きることはありませんでした。そのなかでダレンが心を通わせる、サルのしっぽを持った少女レベッカとの淡い恋には、ちょっと胸キュンとさせられることでしょう。
 バンパニーズとバンパイアの対決シーンは、CG多用ながらもなかなか迫力あるアクションシーンでした。

 そんな数々のドラマと試練、それらと向き合いながら"半人前"から"一人前"のバンパイアになろうと悪戦苦闘するダレンの成長にグッとくるはずだったのです。でも家族の別れなど、ダレンの心情をそんなに深く掘り下げていないので、涙を流すほどのシーンがなかったのは残念です。やはりエンタ寄りの作品なんですね。

 注目は、シルク・ド・フリークの団長ミスター・トール役を演じる渡辺謙。あんな大男で、チョット恥ずかしいくらいのデコちんという異形は自ら選んだキャラだそうです。日本語吹替え版だったので、団長の声は誰がやっているのかと思ったら、本人が吹替えもやっていました。
 トール団長の見せ場は、何と言ってもサーカスでの口上のところ。さすがの貫禄で、朗々と良く通る声で、フリークの登場を告げるところはカッコイイ!
 それだけでなく、バンパイアとバンパニーズの対立のなかで、信念をもって中立を貫き、仲間を巻き沿いさせないという決意を表すとき表情が素晴らしいのです。そのときの目力には、メロメロになりました。そういえば映画『彼岸島』で渡辺大も素晴らしい目力を魅せています。親子二代に渡って、渡辺父子に共通することは、自分の演じることに迷いがないという演技力への圧倒的な自信だと思います。

 トール団長の魅力は、ユニークな個性を持つフリークたちを一つにまとめ上げるだけの包容力です。図体ばかりがでっかいだけでなく、心も大きいのでした。演じている渡辺謙も、団員との絆の強さを印象づけるよう演じたそうです。
 渡辺謙が語るトール団長の魅力の秘訣とは、弱者の目線を分かち合っているということ。フリークたちたちは、いわば社会からスポイルされている弱者ばかり。そんな彼らをサーカスに引き取って、共に助け合って生きられる場を提供しているわけなんですね。
 その眼差しに潜む限りない優しさが、トール団長の魅力を産んでいるのではないでしょうか。

 最後に、本作はなんと日本のコミックが原作となっています。これからも続々と日本のコミックがハリウッドに注目され、世界的な注目を集めることでしょう。
 これから漫画家を志している方には、多いに夢を抱いて欲しいなぁと応援したいですね。

流山の小地蔵