劇場公開日 2009年9月26日

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「監督の冷酷な目線が人の優しさや温もりを表出」のんちゃんのり弁 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5監督の冷酷な目線が人の優しさや温もりを表出

2009年10月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 東京の下町を舞台にしているだけに、この作品を紋切り型に表現すれば「下町人情物語」なのだろう。しかし、見終わったあと感じたのは、あまり下町人情などなく、むしろ人が人に対する厳しさや冷たさがこの作品の根底に流れていたことの驚きだった。それは、緒方監督の人間に対する目線の厳しさがあったからだと思う。

 監督の目線の厳しさは、まず下町そのものの描き方からも感じられた。下町人情を売りにする冷たいおかみがいる飲み屋や多くの店が閉めなければならない、下町の現状を監督はしっかりと映し出す。だから、そんな背景の下町にやってきた30代子持ちバツイチ女性の苦労は、当然のように観客も受け入れられた。
 その主人公への監督の目線も非常に手厳しい。この作品、主人公に向かってたびたび「責任」と言う言葉が投げかけられる。しかし、別れた亭主もそうなのだが、主人公は「責任」の意味を理解できていない。物語の前半、その理解できていない主人公の態度の歯がゆさが描かれたことで、後半、弁当屋を開業しようとする主人公の心の動きが、見ている側にもとてもリアルに感じられたのが、この作品の大きな魅力となった。
 この作品の大きなテーマとは、本当の人への優しさとは何か、ということだと思う。お金などの物を与えたり、べったりとくっついてねこなで声で話しかけることではなく、優しくしなければならない相手に冷たく接することが、本当の優しさであり、人の温もりであることを、この作品では主人公の悩みや苦しみの中から教えてくれる。だから、ラストに弁当屋がはじまる日に、主人公が涙が止まらなくなるくらい号泣するシーンに、見ている側も泣きたくなるくらいの感動をおぼえるのは、本当の人の優しさや温もりに触れた主人公の感激が理解できるからなのである。
 しかし、この作品のもうひとつのテーマである「責任」に関しては、監督は最後まで解答を主人公にも観客にも提供はしていない。そんな終わり方をしているためか、見終わったあとには自分の「責任」を考える余白を、監督から与えられたような気がした。この作品は、大事なものをもう一度見つめなおしてくれる、いい意味で道徳的な秀作ではないかと思う。

こもねこ