「雨上がりに、君と歩こう」赤い風船 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
雨上がりに、君と歩こう
フランスが誇る名匠、アルベール・ラモリス監督が1956年に発表し、カンヌ国際映画祭において高い評価を得た小さな、小さなファンタジー。
何の変哲もない赤い風船と、少年。この最小限の要素だけで、ここまで観客の創造力をたおやかに、豊潤に膨らませてくれる世界がある。この一点を知っているだけで豊かになる誰かの人生がある。ただ、それだけで嬉しい。
フランスという国の持つ薫り高い気品が、日本人として純粋に羨ましくなる。雨上がりの石畳、細い裏道を優しく、申し訳ないように流れる水の流れ、くたびれたトロッコバス。街全体が物語を包み込み、一人と一個を繊細な魅惑の悪戯に連れて行ってくれる。
どこか異国の雰囲気漂う音楽に乗せて、台詞を徹底的に排し描かれるのは、路地裏で街の人間の噂話に興じる野良猫を盗み見たときに感じる異邦人のような気恥ずかしさと、心に広がる暖かな共感。
君が、いる。君と、いる。それだけで、嬉しいんだ。
言葉で説明する必要は、本当は無いのかもしれない。誰か、小さな喜びを日常に見つけたときに、満面の笑顔で「いいね、素敵だね」と一緒に喜んでくれる人が側にいる貴方なら、きっとこの作品を楽しめるはずだ。
雨上がりに、君と歩く。それだけで・・きっと、幸せなんだと気付かせてくれる極上の一品である。
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