「なんじゃこりゃ」ブラインドネス Kさんの映画レビュー(感想・評価)
なんじゃこりゃ
『シティ・オブ・ゴッド』にノックアウトされた身としては,メイレレス監督+豪華なキャスト陣で,すごく期待してたんですが,鑑賞してみると,中盤以降ずっと口あんぐりで,最後はもうあきれながら見終えました.あまりの「ありえね~」ぶりに,もう笑うしかなかったです.
失敗の責任者であるメイレレスを養護するつもりは毛頭ないですが,あえて最大の敗因を探すとすれば,やっぱりこの話は映画には向いてなかったのですね.
原作で味わったヒリヒリするような緊迫感は,「白の世界」を巧みに描写した活字の力によってもたらされていたのであって,映像化された隔離病棟にはスリルを感じませんでした.
病院という閉じた空間内での群像劇,という点を評価する人もいらっしゃるでしょうが,はっきり言ってステレオタイプで新鮮味はなかったです.人格者がリーダーとなる一方で,そこに実力主義の対抗勢力が出てくるという構図は,過去の映画でも使い古されているし,そこに物欲・セックスが絡んでくるというのも凡庸.人種・性別・年齢・職業と,バランスが取れすぎた患者構成こそ,むしろ不自然でした.
集団心理による狂気ドラマなら,『es』の方がよっぽどリアルです(『es』はそもそも実話に基づいているからとも言えますが)
突っ込みどころを列挙するなら,覚えているだけでも,
・妻だけが最後まで感染しなかったのはなぜ?
・女性に蹴られたくらいで,ケガの程度がひどすぎだろ~
・いくら危険な感染症とはいえ,国(軍?)があんな不潔な場所に
感染者だけを閉じこめ,あとは食料放り投げるだけ,なんて非現実的
・ガエル・ガルシア・ベルナルの実力がまったく発揮されていない
・不貞をはたらいた前後で夫婦の心理の機微描写が希薄.しかも,
レイプ候補として妻に立候補してほしい口ぶり.許せるか普通~?
・なぜ火事の時に,都合よく護衛の人間がいなかったのか?
もし彼らも感染したのだとしたら,なぜ死体すらなかったのか?
・スーパーの地下にはあれだけ食料があったのだから分けてやれよ~
・何で伊勢谷友介だけ回復したの? 偶然?
最後に,本作(映画版)の一番の不満は,「白の世界」が人為的に引き起こされたものなのか否かが,微妙にスルーされていること.
たとえば,教会のステンドグラスに目隠しをする行為は,絶対に健常者(=非感染者)しかできないハズですよね.この件を含め,途中で伏線になりそうなポイントはいくつも登場したのに,結局最後まで観客をほったらかし.『LOST』じゃないんだから・・・
『フォーガットン』といい本作といい,どの作品にも変わらず全力投球のジュリアン・ムーアの役者魂には頭が下がりますが,いい加減仕事を選んでほしいです.最後のどうでも良いシャワーシーンであんな露出しなくても・・・
いっそのことラジオドラマにしてしまえば,原作の良さを活かしつつ,きっと視覚障碍の方々にも喜んでもらえたんじゃないかなあ,と思っちゃいました.
個人的には,『ミスト』を超える2008年のトンデモ大賞に決まりです.