「絶望の中で見えてくるもの」ブラインドネス かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
絶望の中で見えてくるもの
自ブログより抜粋で。
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冒頭から謎の病気が伝染していく様がえも言われぬ緊張感を伴いながらテンポ良く描かれ、病気の原因や医者の妻にはなぜ病気が伝染しないのかなどは謎のまま、状況だけがどんどん悪化していく。
原因不明の奇病によって世界が崩壊に向かう黙示録的内容は傑作『トゥモロー・ワールド』(2006年アルフォンソ・キュアロン監督)や今年公開された『ハプニング』(2008年 M・ナイト・シャマラン監督)を思い起こさせるが、極限状態で人間の本性が暴かれていくというプロットはスティーヴン・キング原作の日本では今年公開された『ミスト』(2007年 フランク・ダラボン監督)が近いように思う。
国や都市名はおろか登場人物の名前も排するほどの抽象化は普遍化を伴い、現実の世界情勢を連想させる。それは単純な善悪では割り切れない社会のありようを表す。
配役も一見「この人は善玉、こいつは悪玉」という布陣になっているが、善玉が常に正しい振る舞いを押し通せるわけじゃない。
時に欲望に陥落し、時に理性を超えた行為で我が身を守るしかない。そんな「生きるためにはしかたない」という正当化は悪玉にだって当てはまるのだ。
そんな本作の極限状況たるや目を背けたくなるありさま(PG-12指定)なのだが、本能的な人間の醜さと同時に人間の持つ優しさを忘れないバランス感覚が素晴らしい。
これは究極的な絶望を描ききってしまった『ミスト』からは感じられなかった作り手側の良心だ。
正直、人間の本性が露わになっていく過程は『ミスト』の方が巧みだった印象で、この『ブラインドネス』は少々類型的な気がしないでもない。
ただ前者は、作り手側の一人である筆者には「ここまで観客を絶望に陥れることは商業映画として必要なのか?」という疑問を感じてしまい、素直に評価する気になれなかった。
その点本作はおぞましいまでの絶望には変わりないのだが、支え合う人々に希望を見いだせる落としどころ、映画として救いのある意外なほど爽やかな感動で締めくくられ、鑑賞後感は比較にならないほど良かった。
何も見えなくなった絶望の中で見えてくるものは、やはり希望でなくちゃと思うのだ。