劇場公開日 2008年4月12日

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「大勢の人間の心に潜む下劣な好奇心や無慈悲なこころを暴き立てる作品でした。」ブラックサイト 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0大勢の人間の心に潜む下劣な好奇心や無慈悲なこころを暴き立てる作品でした。

2008年4月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

  この映画の主役は、ひょっとしたら観客かもしれません。ネット投票で残酷な殺人が行われる作品と言うことを知って鑑賞に来るわけだから。その好奇心にかられて、見てしまう群集心理を問題にしているのだと思います。

 その複線として物語は、主人公のネット犯罪専門のFBI捜査官ジェニファーが道路の事故渋滞に巻き込まれるシーンから始められます。

 車が大破し、運転手していた人間は車外に放り出され、上半身にシートがかけてあってどんな状態か伺い知れません。おそらく死亡しているのでしょう。それなのに、通行中の車はこの様子を見ようと、事故現場の横で車の速度を落していき、渋滞が発生していたのです。
 きっと通りかかったヤジウマたちは、ネットの書き込みや井戸端会議で、事故のあらましを見聞したことを得意げに語ることでしょう。
 アカの他人の死は、そこを通過するものにとって、単なる見せ物でしかないのです。しかし、死んだ人間の遺族にとって、そんな他人の無慈悲な野次馬根性に対して、怨念を抱かせる充分な動機になりえることを、この作品では告発しているのです。

 もしあなたの肉親が自殺するシーンを、茶化し気味でニュースに流され、さらにその映像がYOUTUBEに配信されたら、無神経に見ている奴らを恨みに思うでしょう。
 ネット配信を使った劇場犯罪は、こんな動機で行われたのです。ネットを通じて、いろんなむ映像に無神経にアクセスして楽しんでしまう時代になったことを考えさせられました。

 ただ殺人シーンは何ともショッキングな映像でした。
 第一の殺人は、体に「一緒に殺そう」という文字の傷をつけて、閲覧数によって
抗凝血剤が点滴され、出血多量で死亡するというもの。
 第二の殺人は、コンクリで手足を固定された上で、閲覧数によって加熱ランプが点灯し、その熱で焼き殺されるというもの。
 第三の殺人は、ジェニファーの同僚が被害者となるショッキングなもの。殺し方もひどくて、水槽に閲覧数によって硫酸を流し込むというもの。
 3つともすごくリアルで、見るに堪えられませんでした。思い返すだけでもゾゾッとします。
 ちかごろ猟奇的犯罪が多発している中で、この作品に触発された模倣犯が出ないことを祈るばかりです。

 この3つの殺人は、何の関係も内容に見えて、次第に繋がっていきます。その繋がりを解く新たな要素としてネット捜査が登場しているところがこの作品のウリの部分。
 インターネットは匿名と思っている人は、多いでしょうが、実は残されたアクセスログを頼りにサーバーを特定することで、捜査側はサーバー管理者から登録情報を提供してもらい、以外と簡単に個人を特定できるです。
 ただこの犯人は、IPアドレスをランダムに変更させ、多数のコピーサイトを多用して、原題どうりの『Untraceable』追跡不能を実現していました。
 その仕掛けの部分とそれを追いかけるネット犯罪担当のFBI捜査官との攻防は面白かったです。

 但し突っ込みどころとしては、3つの殺人がいとも簡単に終わってしまうのです。それを見ているFBI捜査官は、呆然と眺めているだけ。そういう無力感を製作サイドは見せたかったのかもしれませんが、ただ単に悪化していくだけでは少しもの足りませんね。
 3つうち、もしかしたら助かるかも?というような設定を入れておけば、より緊迫した雰囲気が盛り上がったことでしょう。

 とにかく他人の死を物笑いの種にしているというマスコミや大勢の人間の心に潜む下劣な好奇心や無関心で無慈悲なこころ、汚らわしさをこれでもかと暴き立てる作品でした。 ホラーやバイオレンスとは違った重たさが鑑賞後ずっしり残りましたね。

流山の小地蔵