劇場公開日 2008年3月1日

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「ルーマニアEU加盟直前に撮られた映画」4ヶ月、3週と2日 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ルーマニアEU加盟直前に撮られた映画

2020年4月17日
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この映画を見た欧米人と我々日本人とでは感じ方がそれぞれ違うのではないかという気がふとした。のぞまない子供を妊娠してしまった友人ガビツァの中絶を助けるために奔走するけなげな女の子オティリアのお話は、「困ったときはお互い助け合おうよ」という一昔前の日本だったら当り前(?)の相互扶助精神を素直に描いた作品だからだ。

中絶場所を確保するために官僚的なホテル従業員と折衝したり、手術費用を補うためにもぐりの医者に我が身を捧げたり、肉の塊のような堕胎した赤ちゃんを友人の代わりに決死の覚悟で捨てに行ったり・・・・。個人主義の発達した欧米人が見れば、「なんでそこまでしてあげなきゃならんの」という疑問をきっと抱くにちがいない。しかも、労働力確保のため避妊も中絶も許されていなかったチャウシェスク政権末期の貧しいルーマニアにおいてである。

オティリア以外の登場人物たち(中絶施術を受けたガビツァ本人、SEXのことしか考えていない大学のボーイフレンドや医者、内輪話に花を咲かせるボーイフレンドの家族、官僚的に接するヤル気のないホテルの従業員)は、他人の困惑などはおかまいなしで自分のことしか考えていない。それでも友人の面倒を最後まで見ようとするオティリアを通して、監督は観客に何を伝えようとしたのだろう。

はるか昔、統一後間もないドイツのライプチヒ(旧東ドイツ)を観光で訪れたのだが、そこに暮らす人々の無垢なふるまいに驚かされたことがある。相手の弱みにつけ込んで少しでも有利に立とうとする西側自由主義国のこすっからさを微塵も感じさせない、(本作におけるオティリアのように)親切心の塊のような人の良さに感動すら覚えたものである。

監督クリスティアン・ムンジウのインタビューによれば、本作によってチャウシェスク政権圧制下の緊張感を描いたということらしいが、映画の真意としてそれとはまるっきり逆のことをいいたかったのではあるまいか。EUに加盟し共産主義国から自由主義国に移行するとは一体どういうことなのか。ガヴィツァのように自分のことしか考えていない利己的な人間たちと付き合っていくことになるのですよそれでいいんですね、と。

映画のタイトル『4ヶ月、3週と2日』とはまさに、一度自由主義を導入したらもう2度と後戻りできないという、祖国ルーマニア社会における人心の臨界点を暗にほのめかしたメタファーだったのではないだろうか。「迷ってないで早くEUに加盟しろよ」とばかりにけたたましくクラクションを鳴らす車に、あきらかな不快感を示すオティリアのアップで映画は幕を閉じる。コ口ナ禍の影響で幸か不幸か、仕事に追われる毎日から一服つけた感がある日本の働く皆さんへ是非オススメしたい1本である。

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かなり悪いオヤジ