悲しみが乾くまで : 映画評論・批評
2008年3月18日更新
2008年3月29日より恵比寿ガーデンシネマ、シネカノン有楽町1丁目ほかにてロードショー
男女の感情を鋭くえぐるビア監督の"カミソリ"感覚に驚愕!
デンマークの女性監督スサンネ・ビアは、男女のざらついた感情をすくい上げる名手である。ヨーロッパ時代の「アフター・ウェディング」も「ある愛の風景」も、故イングマール・ベルイマンがTVドラマ化しそうな主題のメロドラマで、幸せを絵に描いたような裕福な家族の情景に始まり、その幸せが崩壊かつ破綻してしまうプロセスをえぐっていた。
アメリカに拠点を移した今回は、アカデミー賞受賞者であるハル・ベリー(「チョコレート」以来初めてのマトモな役だ!)とベニチオ・デル・トロを迎え、まるでセルフリメイクであるかのように同じ主題を選んでいる。突然夫を失ってしまった未亡人(ベリー)のやるせない喪失感と、彼女が亡き夫の親友だったドラッグ中毒者(デル・トロ)に抱く葛藤や屈折した関係を、"フラッシュバックの断片"をつなぎ合わせ、タペストリーのように丹念に織り込むのだ。
デル・トロのぶっ飛んだ演技により、他では端整すぎて面白くないベリーの演技まで際立って見えるから不思議だ。いつもより"未来が感じられる"ハッピーな終わり方は少しばかり不満だが、女と男がベッドで足を絡ませるシーンなど、身体的な"接触"をありきたりではない描写でえげつなく切り取る、カミソリのようなビア監督の感覚に驚愕する!
(サトウムツオ)