「あなたに会えてよかった♪」グーグーだって猫である kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
あなたに会えてよかった♪
犬童一心は犬好きなのかと思っていたけど、大島弓子好きだったのですね。今回の『グーグー』が自主映画時代を含めて3本目の大島弓子作品になるらしいです(『メゾン・ド・ヒミコ』も触発された作品という)。予告編からは完全な動物映画なのかと想像してしまいましたが、明らかに人間視点の映画。自身も闘病生活を乗り越えた経験もあるらしく、大島弓子の自伝的作品にも感じられる以上に、人間と動物の共存とか、自然、地域のコミュニケーションを大切にしているような温かい作品でした。
吉祥寺に住む天才漫画家・小島麻子(小泉今日子)は愛猫サバの死によって仕事が手に付かなくなった。ナオミ(上野樹里)やアシスタント(森三中)たちも失職するなどといった切羽詰まった悲壮感はなく、どことなく楽天的。彼女たちを囲む市井の人たちもスローライフを楽しんでいるかのようで、ゾウの花子の飼育係山本浩司、楳図かずお、そしてどこにでも登場する謎のおじさんも本業よりも人とのつきあいを楽しんでいる。
東京にもこんなに緑の多い地域があるんだと改めて住みたくなるような吉祥寺。メンチカツなど食文化だって盛んそうだし、金さえあればいつでも森三中になれそうだ。だけど、ナオミは大阪弁を喋ってたようだし、静岡や小豆島に帰るといったセリフもあったし、麻子や母(松原智恵子)は北陸の言葉を喋っていたし、みな地方から出てきていたんですね。アメリカ人ナレーターもいるし、吉祥寺に住む人よりも地域をメインにした映画とも言えるかもしれません。地元のイントネーションが聴けたのにはびっくりでしたが、これが東北の言葉じゃなくてよかった。もしそうだったら“グーグー”の由来が“ズーズー”になってしまいそうで・・・
観終わって感じるのが、ストーリーの中核となる飼い猫はグーグーじゃなくてサバだったってこと。よほど愛着が湧いていて、麻子の心の大部分を占めていたのだろう。プラトニックながらも発展しつつあった恋も「グーグーを預かって」という言葉で締めくくられたし、死神の最後の計らいにも集約されていた。この一番の泣かせどころでキョンキョンの「あなたに会えてよかった」が聴けたなら満点だった・・・とはいえ、映画の終わり方はとても前向きで、癒し系映画にふさわしいものでした。
『いぬのえいが』の「ねぇ、マリモ」をも彷彿させられますが、動物への愛情は普遍的なものであると感じます。マンガ的な展開になったり、時代があちこちに飛んだりしてわかりづらかったりと、映画的には完成度が落ちるのかもしれません。だけど、犬童監督の大島弓子へのリスペクトが感じられることで満足。
〈2008年9月映画館にて〉