「美しくも、スリリングで繊細な映画」ラスト、コーション mac-inさんの映画レビュー(感想・評価)
美しくも、スリリングで繊細な映画
戦時中の上海と香港を舞台に、抗日派のスパイとしてワン(タン・ウェイ)は、親日派の特務機関のリーダー、イー(トニー・レオン)に近づき暗殺の機会を狙う。ワンはイーを誘惑し、任務として男女の関係になるが、ワンは任務と思いつつやがてイーに引かれてゆく。イーもこの虚構に彩られた時代に、唯一確かなものとして、ワンの肉体を求めてゆく‥。
ワン(タン・ウェイ)は、バリバリの抗日派ではなく、友人に誘われるように学生劇団に入り、馬鹿な学生たちの暗殺計画に意思を明確にしないまま手を貸してしまう。ましてや自分がメインで。運命に流されるままにイー(トニー・レオン)に会う。
結局彼女は、バリバリの闘志ではなく、勝手に身体が動くように運命に流されていく。二人とも頭ではなく、身体が引き合うように引き合ってゆく。
大島渚の作品を思い出される。前半は「青春残酷物語」、後半は「愛のコリーダ」。前半は、学生の無知ぶりの暗殺計画で、大きな代償を払わされる。後半は、運命的は出会いで出会ってしまった二人のSEXのみしか確かな実感が湧かない虚無感が「愛のコリーダ」を思い出させた。
アン・リーらしい端正な演出。大胆なセックスシーンが評判になったが、あのセックスシーンがなかったら、この映画の充実感はなかった。
日本人街の料亭で、タン・ウェイがトニー・レオンに歌を歌うシーンの美しさ。トニー・レオンの悲しい表情とタン・ウェイのこの刹那を楽しむ幸せそうな表情。このシーンは、それまでのリアルで濃厚なセックスシーンがあったらこそ、美しさと切実感が出た。
また、セックスシーンもリアルでありながら、美しい。
タンウェイのあどけない顔が段々妖艶になっていく様も面白かった。トニー・レオンもよかった。狡猾で無慈悲、それでいて虚無を抱えてる人物でタン・ウェイの身体に溺れてゆく様を、押さえた表情で演じる。
ラスト近く、タン・ウェイが自転車タクシーで逃げるシーン。喧騒のなか、陽気に話しかける運転手。糸が切れた凧のように虚無な表情のタン・ウェイ。タン・ウェイの不安定な気持ちを表す名シーン。これが映画としてはクライマックスだった。これで映画的には終わっていた。
あとはエピローグ。話を決着することが目的。処刑シーンはなく、代わりに採掘場の断崖の下の暗黒が映される。そしてトニー・レオンの悲しそうな表情で終わる。
美しくも、スリリングで繊細な映画だった。