ラスト、コーション : インタビュー
これまでは無名だった彼女は、大胆なベッドシーンを体当たりで演じ、一躍、世界に名を馳せることになった。そんな本作の主演女優タン・ウェイに話を聞いた。(取材・文:佐藤睦雄)
タン・ウェイ インタビュー
「この撮影を通じて、女性として少し磨かれたかなと思います」
――ワン・チアチーはイーに結局は殺意を感じず、愛に突き進んでいったような気がしました。
「彼女はイーに対して殺意を持っていなかったと私は思います。彼女は生まれながらの女優で、スパイであるマイ夫人を演じろ、と言われたから一生懸命演じきっていたわけです。彼女はひとりぼっちで、肌のぬくもりがほしかったと思うんですね。イーとの愛はどこか歪んでいますが、その中に温かみを感じたのでしょう。演じた側としては、どんなに悲痛であれ、ロマンティックなラブストーリーとしか分析できないですね」
――彼女は女優で、劇中劇でさまざまな役を演じていますが、難しかった点は?
「たとえば、あなたはプレスのインタビュアーなわけで、家に帰ると誰かの恋人だったり、パパだったり、息子だったりするわけで、それを意識はしていないでしょう。ワン・チアチーを118日間演じましたが、その撮影期間中、114日間撮影があって、その期間平均して3時間しか眠れなかったので、役から抜け出せる余裕がなかったんです。チャイナドレスを着たら、ワン・チアチーになっていました。アン・リー監督は洞察力がものすごくて、私が役になりきっていない時は必ずダメ出しをしてきました(笑)。それは背中姿でもそうだったので、一瞬たりとも気が抜けませんでした」
――長丁場の撮影で、体調面での維持は大変ではなかったですか?
「確かに、お肌にプツプツが出たりしました。そうすると、周りが緊張するんですね。全部CGでは消せませんから。毎日3時間ぐらいメイクして、その後12時間ぐらいぶっ通しで撮影しました。ですから、私のお肌にとっては大変だったかもしれません。でも、スタッフの熱意が相当でしたから、一生懸命演じるしかありませんでした」
――マイ夫人役ではチャイナドレスを着ていますね。1930年代と現在では所作なども違うと思うんですが、最も苦労した点はどんなこと?
「ドレスの着付けについては先生についてもらいました。彼女は髪を巻き上げて、チャイナドレスを着ているような昔の絵から抜け出たような女性でした。外見的には彼女の教えを守ればよかっただけですが、その根底にある文化をよく理解しないと演じきれません。その先生から、歯の磨き方とか、いろいろ教わりました。もう一つは脚です。つねに膝に輪ゴムを巻いて、両膝がピッタリくっつくように気をつけました。というのも、普段の私はチャイナドレスどころか、スカートすら履かなかったんです(笑)。パンツが好きで、しかも大きな歩幅で歩いていましたからね。ですから、この撮影を通じて、女性として少し磨かれたかなと思います」
――ワン・チアチーになりきったと語っていましたが、性格的にご自分と比較してどうですか?
「イーのようなステキな男性と出会えなければ、ワン・チアチーにはなれないでしょうね(笑)。そうですね、2人の共通点といえば、演じることが好きな点かしら。与えられた役を一生懸命ベストを尽くして演じる。私はこの役を演じたことで、自分の心の一面を映し出すことができたと思うし、あの役に感情移入することで、自分の知らなかった側面も理解することもできました」
――アン・リー監督とは多くのディスカッションをしたと思いますが、理解できなかった感情とかありましたか?
「レジスタンスのボスに対して、ワン・チアチーが感情を爆発させるシーンが印象的です。あの場面では、事前にセリフが渡されず、本番直前にセリフが渡されたんです。アン・リー監督は私に、『ワン・チアチーになりきったとして、そのセリフをどう思うか?』と感想を求めてきました。そこで何度も話し合い、セリフを書き直してくれました。あのシーンだけで3日間かかりました。最初から脚本はありましたけど、アン・リー監督は演技のプロセスの中で、私たちの演じている感想をすくい上げ、脚本を練り直してくれました。監督との呼吸はピッタリ合っていました」
――トニー・レオンさん演じるイーの顔で、最も好きだった顔はどんな顔ですか?
「イーは非常に冷たい目をしていますが、内面は複雑で、熱いモノを持っています。そうした感情を訴えている表情には見とれていました(笑)」
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