ファーストフード・ネイション : 映画評論・批評
2008年2月12日更新
2008年2月16日よりユーロスペースにてロードショー
巨大な資本主義システムと“食の安全”への警鐘
この原稿を書いている時点で混迷の度を深める“毒ギョーザ事件”をはじめ、僕らの“食の安全”を脅かす出来事が頻発している。しばらく冷凍ギョーザを食べる人は減り、スマートに生きる人(?)は今後もファーストフード屋に入り浸ったりしないだろう。だけど結局エコな雰囲気のスターバックスではなくファーストフード屋に助けを求めるのは僕らにお金がないからで、“安くて安全な食べ物などない”のだとすれば、貧乏人はどうすればいいのか?
とても面白くラディカルなリンクレイターの新作は、ファーストフード業界の劣悪な労働環境やずさんな衛生管理を告発し、数年前にアメリカで大論争を巻き起こしたルポルタージュを原作としている。ファーストフード業界の愚かさを嘲笑し、末端で働く違法移民の苦悩を描きつつ、映画作家による批判の射程は、全てが金に還元される巨大な資本主義システムそのものに向かう。あるいは僕らが何かを食べ、異物を体内に入れること抜きに生きていけないとすれば、そもそも“食の安全”などあり得るのか……と。本作でのファーストフード業界がハリウッド映画業界のメタファーに見えるのは僕だけだろうか?
リンクレイターは自らが業界内異分子にして、インディペンデントな反骨精神の持ち主であると宣言している。「オレを食えるものなら食ってみろ、そこにはお前の健康を脅かす積極的な意味での“毒”が潜んでいるぞ……」と。
(北小路隆志)