「先生の悲劇が、日本の漫画やアニメの映像コンテンツ化の未来に繋がっていく事を切に祈ります」砂時計 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
先生の悲劇が、日本の漫画やアニメの映像コンテンツ化の未来に繋がっていく事を切に祈ります
砂時計
2008年、東宝
原作は2003年から2006年にかけて連載された少女漫画が原作です
大変に人気が高く、2007年にはTBS でテレビドラマ化されさらに話題を集めて、2008年には小説化、そして映画化も(本作)されました
原作者の芦原妃名子さんの名前は、昨年2024年、不幸な出来事で有名になりました
彼女が原作の漫画「セクシー田中さん」を巡る一連の騒動の末に自ら命を絶たれたことはまだまだ記憶に新しく思い出したくもない出来事です
その作品が原作者が受け入れられないほど作品を改変されて映像化されたことが引き金でした
しかもあろうことか実写製作側が原作者をSNS で攻撃するという考えられないことことが起こって原作者の精神を追い詰めたのです
本作の劇中で婚約を破棄する婚約者のように
本作では、原作者も、ファンも満足できた幸福な映像化でした
まるで杏と大吾が結ばれたように
きっと先生も、あの作品でもこのようになると信じ切っておられたのだと思います
原作をリスペクトするというのは
何もかも原作に忠実でなければならないということではありません
映像化するには、上映時間などの制約は自ずからあります
実写ならではのこともあるかも知れません
それは原作者もファンも良く分かっていることです
しかし、原作の核心となる絶対に変えてはならない部分があるのです
その作品ではそれが何なのかを考える姿勢があることが映像化の許諾を原作者から与えられるか否かの最初の一歩のはずです
本作は、そんなことは自明のこととして製作されていることがどのシーンからも伝わってきます
このような幸せな映像化の経験が
あの作品での許し難い裏切りと見えたに違いないと思います
ハリウッドはコンテンツが枯渇しつつあると思われます
それが洋画の低迷の根源にあるのではないでしょうか?
一方日本には、アニメや漫画の無尽蔵とも言えるコンテンツの金鉱がまだまだ未発掘のまま眠っています
しかし、それらは本作のように慎重に大事に大切に金鉱を掘り起こさねばならないのです
あの事件のような映像化の不遜な態度がその金鉱を爆破して永遠に失われる結果を引き起こしてしまったのです
日本が世界に誇る漫画文化を映像化する基本姿勢の手本として、そしてあの忌まわしい事件を二度と起こしてはならない教訓として、漫画を原作とした映像化を考える人々は全員、本作を観るべきだと思います
実写界が、漫画界やアニメ界よりも上級な世界だという思い上がった姿勢の人間には、決して映像化権の許諾を与えてはならないのです、一切関わらせてはならないのです
世界中に日本のアニメや漫画の映像イメージの言語が広まっていることを考えれば、どちらが上かというなら、漫画やアニメ界の方が上のはずなのです
劇中の時間は、杏が14歳で島根に初めて来た時、その1年後、さらに10年後の三つの時間ははっきり示されますが様々なシーンが杏の記憶として時系列に関係無く折り重なって進行していく脚本が巧みでした
記憶が降り積もって過去の自分が出来ているということです
未来から時が降って来て現在を通過して記憶になり、過去に降り積もる
忘れられない記憶が過去の自分を作っているのなら、これから降り積もってくる未来の記憶もまた、未来の自分を作るのです
ほら、ひっくり返したら、過去が未来になったよ!
先生の悲劇が、日本の漫画やアニメの映像コンテンツ化の未来に繋がっていく事を切に祈ります
とにかく夏帆さんの演技の凄さに圧倒されると思います
「天然コケッコー」は2007年の
山下敦弘監督作品
本作の1 年ほど前の夏帆さんが主演の映画です
夏帆さんの演技に感銘を受けられたなら、必ずご覧になられることをお勧めします
そしてまた、島根の美しい光景にまた出会えます