劇場公開日 2010年12月10日

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「【79.7】ロビン・フッド 映画レビュー」ロビン・フッド honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 【79.7】ロビン・フッド 映画レビュー

2025年10月5日
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鑑賞方法:VOD

作品の完成度
本作は、リドリー・スコット監督とラッセル・クロウ主演の「グラディエーター」コンビが再びタッグを組んだ歴史スペクタクル大作でありながら、従来の義賊譚を覆す「ロビン・フッド誕生秘話」としての完成度を目指した意欲作である。スコットの歴史大作におけるリアリティの追求は健在で、中世イングランドの苛烈な現実と土臭い世界観を見事に構築。しかし、単なる勧善懲悪のヒーロー物語ではなく、ロビンの出自の秘密、ジョン王の暴政、そしてマグナ・カルタ制定へと繋がるイングランド成立期の動乱を描く壮大な歴史叙事詩としての側面が強すぎるゆえに、娯楽性と歴史的重厚感のバランスにやや難を抱える結果となった。これは、伝説のヒーローが「なぜ、いかにして誕生したのか」という問いに答えるべく、物語を政治劇、戦争アクション、ロマンスの多層構造で描こうとした野心ゆえの葛藤の表出である。クライマックスの海岸での大規模戦闘シーンの迫力と興奮は圧巻だが、それまでの物語の進展が長く、ロビン・フッドとしてのアイデンティティ確立が終盤にずれ込んだ構成は、観客が求めるカタルシスを限定的なものとする要因。結果として、スコットのフィルモグラフィーにおける「グラディエーター」や「キングダム・オブ・ヘブン」の初期編集版が持っていた圧倒的な求心力には及ばないものの、彼独自の歴史観と映像美学が結実した重厚な作品であることは疑いない。
監督・演出・編集
監督リドリー・スコットの持ち味である、細部にまで徹底的にこだわった美術と、大規模な群衆・戦闘シーンを冷静かつダイナミックに捉える卓越した演出手腕が光る作品。特に冒頭のフランスでの城攻めや、物語後半のイングランド海岸での攻防戦は、中世の苛烈な戦場の臨場感を肌で感じさせる迫力ある映像表現の成功。編集は、2時間を超える長尺でありながら、史実的な背景説明とキャラクターアーク(人物の成長曲線)の提示を両立させようと試み、物語のテンポを慎重に制御。しかしながら、ロビンの過去や政治的な陰謀の描写に割かれる時間が長く、スペクタクルを期待する観客にとっては、緩急の「緩」の部分が長く感じられる側面。総じて、スコットの堅実な演出力が歴史大作としての格調高さを保ちつつ、物語の根幹たる「ロビンの真実」の提示を優先した、職人芸的なバランス感覚が特徴である。
脚本・ストーリー
ブライアン・ヘルゲランドらによる脚本は、弓の名手ロビンがなぜ義賊となったのか、という起源の物語を大胆に再解釈。獅子心王リチャード1世の死後、弱体化したイングランドを舞台に、私利私欲に走るジョン王とフランスの陰謀を描き、ロビンを国家の危機を救う「愛国者」として位置づけた点が革新的。従来の物語がノッティンガムの代官という小さな悪との戦いに終始したのに対し、本作は「王権と民衆の権利」という普遍的なテーマに昇華させた構造。ただし、ロビンのアイデンティティの変遷やロクスリー家との関係など、設定が複雑に絡み合い、物語が展開する過程でやや説明的な要素が先行し、ロビンが真のヒーローとして立ち上がるまでの道のりが遠い印象。結末でロビンが森へ追放され、ようやく「義賊」となる始まりを迎えるという構成は、次作への期待を煽るものの、単体作品としての完結性を損なった側面もある。
キャスティング・役者の演技
主演:ラッセル・クロウ(ロビン・ロングストライド役)
ロビン・フッドという伝説的英雄を、傷つきやすく、怒りを内に秘めた一人の元兵士として再構築したクロウの演技は、肉体的にも精神的にもタフな男の魅力を体現。若き日のロビンの軽快さではなく、酸いも甘いも噛み分けた大人の男が、故郷と名誉、そして愛する者を守るために立ち上がる姿を説得力をもって演じきった。特に、父の形見である剣の謎を追う時の苦悩や、マリアンに対する不器用な愛情表現は深みのある人物像を確立。巨大な権力に立ち向かう一匹狼の孤高な存在感は、「グラディエーター」で示された彼の代名詞であり、本作においても物語の重石として機能。弓を引く際の集中力や、数多の戦闘シーンで発揮される身体能力は、単なるフィクション上のヒーローを超越した、生身の戦士としてのリアリティを獲得させた彼の功績は大きい。
助演:ケイト・ブランシェット(マリアン役)
従来のロビン・フッド物語における「ただ待つ淑女」像を打破し、自ら農場を切り盛りし、戦場では鎧を纏い剣を振るう自立した強い女性としてマリアン像を刷新。ブランシェットは、その気品あふれる美しさと、芯の強い意志を秘めた眼差しで、中世の過酷な時代を生き抜く女性の強靭さを表現。ロビンとの間に流れる大人のロマンスは、単なる恋愛を超え、信頼と敬意に基づく同志愛を色濃く反映。彼女の存在が、ロビンが戦う大義に個人的な情感と切実な動機を与え、物語全体に確かな血肉を通わせた。
助演:ウィリアム・ハート(ウィリアム・マーシャル役)
イングランドの摂政として、若く未熟なジョン王を支える古参の貴族ウィリアム・マーシャルを、その重厚な存在感をもって体現。ハートの静謐ながらも威厳に満ちた演技は、王室内の権力闘争と忠誠心の間で葛藤する熟練の政治家の内面を表現。彼が物語の最終局面で、王権の暴走を食い止めるべく、貴族たちの意見をまとめる役割を担う姿は、史実上の偉大な政治家としてのマーシャルの重要性を象徴的に示し、物語に歴史的な確からしさを付与する重要な鍵。
助演:マーク・ストロング(ゴドフリー役)
ジョン王に取り入り、フランスと通じてイングランドを内部から崩壊させようとする悪役ゴドフリーを冷徹に演じきったストロング。その鋭い眼光と、感情を表に出さない冷酷な振る舞いは、物語における悪意の象徴として機能。彼は単なる戦闘の敵ではなく、イングランド貴族階級の腐敗と、権力への飽くなき欲望を具現化した存在。彼の裏切りと陰謀が、ロビンにロクスリー家の名誉を継がせ、やがて国家を救う義挙へと向かわせる物語の駆動輪となった。
助演:マックス・フォン・シドー(サー・ウォルター・ロクスリー役)
ロビンの亡き父を知る盲目の老貴族サー・ウォルター・ロクスリーとして出演。映画終盤にクレジットされる大御所俳優フォン・シドーは、短い出演時間ながらも、静かながらも深い威厳と知恵をにじませる演技で、ロビンに新たな道筋を示した。ロビンに亡き息子の代わりとして名乗りを上げさせる彼の決断と、その後に見せる父性的な温かさは、ロビンが単なる弓の名手から、大義を背負う者へと変貌する転換点における、精神的な柱としての役割を果たす。
映像・美術衣装
中世のリアリティを極限まで追求した美術が最大の評価点。甲冑や武器、城郭のディテールは歴史考証に基づき極めて綿密。特に、ロビンが辿るノッティンガムやロクスリー家の農場など、当時のイングランドの風景は、湿潤で陰鬱な空気をまとい、貧困と荒廃が支配する時代の雰囲気を肌理細かく描写。衣装もまた、リチャード1世の華美な甲冑から、農民の粗末な服、そしてロビンが着る革製の素朴な衣装に至るまで、階級と生活感を正確に反映させた重厚な仕上がり。大規模な戦闘シーンにおける血と泥にまみれた描写は、スコット監督作品特有の壮大なビジュアルスケールを確立している。
音楽
劇伴音楽はマルク・ストライテンフェルトが担当。スコット監督作品の音楽を手掛ける常連として、本作の重厚なテーマを担う音楽を提供。彼のスコアは、中世の戦場と陰謀が渦巻く宮廷劇の緊迫感を高める。特に、ロビンが背負う運命の重さや、イングランドの広大な自然を表現する際に用いられる、民族楽器を取り入れた雄大かつ荘厳なサウンドデザインが特徴。特定の主題歌(ポップソング)は存在せず、全編が劇伴で構成されており、作品の歴史的リアリティと雰囲気を損なうことなく、情感とスペクタクルを増幅させる機能的な役割に徹した。
受賞歴
本作は、公開された年において、世界三大映画祭やアカデミー賞、ゴールデングローブ賞などの主要な賞において、目立った受賞やノミネートの事実は確認されていない。カンヌ国際映画祭のオープニング作品としての位置づけは、作品の注目度の高さを裏付けるものの、主要な作品賞や監督賞、演技賞などの栄誉には至らなかった。
作品 Robin Hood
監督 リドリー・スコット 111.5×0.715 79.7
編集
主演 ラッセル・クロウB8×3
助演 ケイト・ブランシェット B8
脚本・ストーリー 原案
ブライアン・ヘルゲランド
イーサン・リーフ
サイラス・ボリス
脚本
ブライアン・ヘルゲランド B+7.5×7
撮影・映像 ジョン・マシソン A9
美術・衣装 アーサー・マックス A9
音楽 マルク・ストライテンフェルト A9

honey
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