劇場公開日 2007年11月17日

「水球シーンは100点なんだけど...」君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0水球シーンは100点なんだけど...

2013年3月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

十五年前のバルセロナ五輪の最終日。私は、水球の決勝試合・スペイン対イタリアに度肝を抜かれた。

 ボールの奪い合い時の水中の足蹴りの応酬、コートチェンジの時も選手どうしでの罵り合い…。水球を見たのがそれが初めてだった私は、テレビに映る格闘技まがいの乱戦に呆気にとられてしまった。が、両チームの選手たちが必死に戦っている姿に、国の威信やプライドをかけた「聖戦」のように見えた私は、その試合から感動以上のものを与えてもらった。今回見た映画のクライマックスとなった、1956年メルボルン五輪大会水球準決勝・ハンガリー対ソ連が、五輪史上に残る「聖戦」だったことを知ったのは、そのすぐ後のことだった。
 この作品は、ハンガリーとソ連が対戦する直前まで起こっていたハンガリー動乱の物語だ。自由を求めて立ち上がった若者たちや市民たちが、侵攻してきたソ連軍の戦車へと立ち向かっていく姿が画面に何度となく映し出され、その結果が歴史上の事実として分かっているだけに、ハンガリー国民が受けた悲しみに観客は胸を痛める。そして、物語が水球の試合へと移ると、当時のハンガリーの国民が受けた感激がどのようなものかを実感する。この作品を観ていると、ハンガリー動乱当時の人々になったような気分になってくるのだ。
 ただ、この作品の水球は、「聖戦」には私は感じなかった。それは、演出が水球選手と革命戦士の女性との恋に偏り、ソ連軍に立ち向かった者たちの心の琴線まで触れられなかったからだ。結局、ソ連と戦った水球選手たちの心意気を描くところまでも演出は至らず、その試合が国民の威信をかけた「聖戦」だったはずなのに、そこまで緊迫したものを感じられなかったのである。情緒的な物語にせずに、革命を志す者たちを描くことに演出が集中していれば、ハンガリー国民の「聖戦」が描かれたものになっていただろう。演出の舌足らずが目立った惜しい作品だと思う。

こもねこ