コースト・ガードのレビュー・感想・評価
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キムギドク監督の一秒一秒ドキドキしたり意外な展開に驚いたり衝撃を受...
キムギドク監督の一秒一秒ドキドキしたり意外な展開に驚いたり衝撃を受けたりしない、珍しい作品。モチーフの繰り返しがあり、モチーフの振り幅や登場人物はかぎられているため少し冗長な感じがする。
兵士と民間人、兵士と上官、男と女、年次の違う兵士、
それらの力関係、差異に事件やアクシデントがかぶり、起立ある組織において規律が守られず、部隊内で隠蔽に次ぐ隠蔽。最初の事件からドミノのように事件が連なっていく。違反に次ぐ違反、報告なし。こんな部隊がスパイの侵入を防ぐ国境警備できるわけないから何という風刺であろうか。この映画のキモはそこなんじゃないか、そういう韓国の軍事体制や社会を揶揄する、警鐘を鳴らすものと思われ、ラストのソウルの繁華街で軍とは無関係に都会で楽しく生きてる人々が危険よりも好奇心でカン兵士の周りを取り囲み見物しているのだ。
予測不能のキム・ギドク
カン上等兵(ドンゴン)は血気盛んな兵隊。スパイを撃ち殺してやると燃えていた。顔には迷彩色で化粧して、持ち場を離れてでもスパイを撃とうと身構える。昼にレクリエーションを楽しんでる兵をよそに彼一人だけ畑に潜んでたりするのだ。誤射して殺してしまったカンは村人からも殴り蹴られるなどの暴行を受け、罪悪感から精神に異常をきたす。恋人を殺されたミヨンも精神がおかしくなり軍の近くで奇行を繰り返す。
通常業務不可能と診断され、兵役半ばにして除隊となったカン。しかし、彼の精神異常は重症で、軍服を着て舞い戻ってくる。隊の中でもミヨンと関係を持ったものが多数出てきて、彼女を妊娠させてしまう。彼女の兄も暴れるし、外には武装したカン上等兵。コーストガードもボロボロの状態となってしまう。
毎度のことながらギドク映画は予想がつかない。狂人兵士と狂人。いや、民間人だって、規則違反を犯したわけだから、罪がないとは言えないところがミソ。みんなどこか狂わせてしまう37度線。軍部批判とまではいかないけど、人を殺してしまうことの罪深さや正常と精神異常の境界線を絶妙なバランスに仕立て上げている。そして階級の差や、兵と民間人の境目。些細なことが発端となって、人間は常に狂ってしまう弱い動物だということがわかる。
ラストシーン。一等兵を殺そうと基地の周りをうろついているかと思われたカンはソウルの街の中で群集に囲まれていた。なんともやるせない・・・
おかしいとは思ったが・・・
韓国映画界の鬼才、キム・ギドク監督が、「ブラザーフッド」などで人気を獲得したチャン・ドンゴンを迎え挑んだ、戦争サスペンス映画。
男女の極限まで追い込まれた緊張状態をテーマに、スリリングなファンタジーを描き出す事を得意とするキム・ギドクが戦争に挑む。朝鮮半島の境界線上を舞台とすると聞いて、単純に戦争の無常さ、悲しさを表現するとは思えなかった。観賞してみたところ・・・やはり、一筋縄ではいかない曲者戦争作品に仕上がっていた。
朝鮮半島、韓国と北朝鮮の分断線において警備に当たる軍隊。その緊張とは対照的に、侵入者はなかなか現れず、兵隊達の鬱憤は最大限まで高まっていた。そんな中で起こる、一つの誤射事件をきっかけに、バランスを保っていた軍隊は静かに、確実に破滅に向かっていく。
とにかく、戦争映画と聞いて深刻な歴史絵巻を想像された方、まずはその先入観を捨てていただきたい。
血気盛んなチャン・ドンゴンのキレっぷりを筆頭に、人間の本性、欲望の爆発を、観客をいかに物語に集中させ、楽しませるかを第一に考え尽くされ、描かれる。常識外れの展開と、まさかのエンディングはもはや、戦争ドラマであることを忘れ、喜劇の域に達している。
男臭さは、桁違い。女性の繊細な駆け引き、情念を見事に引き剥がし、泥と汗が溢れ出す男の園が華麗に構成されている。チャン・ドンゴンの甘いサスペンスを観たい方には、自信を持って勧めない。
怒涛の喧嘩と、嘘くささ。これぞ韓国のガチンコ肉体映画。残念な事に、チャン・ドンゴンは汚れている。泥にまみれきっている。でも、格好良い。
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