劇場公開日 2005年8月27日

「息子の人生と、父の人生」メトロで恋して きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0息子の人生と、父の人生

2024年4月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

後半、
33歳の息子が
長いブランクを経て、自分の弱さと躓きを父親に打ち明けに行くのです。

リルケ著「マルテの手記」が、この息子のために、老父から手ずから渡される大切な小道具になります。
恋人を捨て、恋人から見放されて、その人生の痛みの一節 ヒトフシ を背負うアントワーヌ。
これから独りで歩んでゆくその息子のためにと、父が手渡すリルケ。
息子の窮地を抱きとめるようでもあり、また、突き放すようでもあり、
人生の先輩である父親を乞うる息子のシーンが、白眉でした。

他者の台詞を、役者として口にし続ける息子にも、渾身からの、借り物ではない言葉を語る時が来たのでしょう。

メトロで始まった恋と破局については、
その「追憶」が、ただの感傷的な記憶からいつか昇華して、自分自身の肉体とひとつになるまでは黙しているようにと勧める、― リルケを与える父。
偉大な大人の姿がそこにありましたね。

短いラブストーリーなのですが、
さすがフランスものです。
「大人ならは、私たちも自己を探究して自立すべし」と、父の姿をまとった《文学》と《哲学》と《詩》が、
現代に生きる若者たちに語りかけるのです。

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「マルテの手記」、
久しぶりに読みたくなり、古書店で新訳のものを購入。還暦を過ぎた自分に、新たにどう響いてくるかが楽しみです、
映画に登場する書物を求めて、読んでみるのが僕の常なのでね。
劇中、アルゼンチンに旅立つ病身のクララを演じるのはジュリー・ガイエでした。「ぼくの大切なともだち」以来の再会。
実力派です。

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きりん