劇場公開日 2005年7月9日

「悪夢のような大戦禍と、悲哀に満ちた「最期」。」ヒトラー 最期の12日間 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0悪夢のような大戦禍と、悲哀に満ちた「最期」。

2022年10月18日
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鑑賞方法:VOD

○作品全体
ヒトラーの描き方が独特な作品だ。
ナチスドイツの終わりの時期に焦点を当てることで、快進撃の根幹にいたヒトラーの姿は一抹も感じさせない。「カリスマ性」とか「煽動力」といった、ヒトラーを語るうえでよく出る単語からはほど遠い姿が印象的だ。

構成やセリフから「悪夢」という単語が浮かんだ。
ドイツという国そのものが「悪夢」の真っ只中である12日間だが、ファーストシーンが真夜中で、ラストシーンが夜明けである本作の構成そのものも「悪夢」を想起させる。ユンゲが地下へと潜って行くのも悪夢という眠りの淵へと向かって行くかのようだ。そしてラストシーンでユンゲが語る「目を見開いていれば…」という言葉が、瞳を閉じて見続けている悪夢の世界を印象付ける。

そして悪夢だと感じているのはドイツ国民だけではない。親愛なる国土を蹂躙され、なすすべもなく喚くも状況が変わらないヒトラーも悪夢の中を過ごしている。「偉大な総統」だった頃こそが夢であったかのようなヒトラーの姿は、作中では癇癪持ちの疲れ切った老人でしかない。時折ユンゲたちに見せる優しい表情が、むしろその悲哀を助長させる。
夢破れ、夢から醒めた老人という部分にスポットをあてていることが、「最期」の無情さを最大限に感じさせていた。ヒトラーが総統でなく、ただの老人になってしまったことがナチスドイツの「最期」で、その描き方はベルリンの大戦禍とは裏腹に、穏やかな老衰死のような、なだらかな死のように描いていたのがまた印象的であった。

○カメラワークとか
・地下施設の映し方が上手だった。狭苦しい環境のはずだけど、ヒトラーからすると心許せる人物が少ない場所。時折ガランとした空間を映すことでヒトラーの空虚に接近する。

・最初のヒトラー激怒シーン。怒る直前、メガネをゆっくりと外すのはシンプルにカッコよかった。怒ってからヒトラーの背中をなめて、奥に立つ将軍たちを映す。意見の決定的な乖離が際立つカメラ位置だった。

すっかん