ラヴェンダーの咲く庭でのレビュー・感想・評価
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息を飲む、美しくも悲しいサウンドトラック
「素朴な琴」八木重吉
この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美くしさに耐へかね
琴はしづかに鳴りいだすだらう
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うちには弾く者のいないバイオリンが一丁、そのまま置かれています。
バイオリンの音色は悲しいけれど、それを弾いてくれる人の不在は またさらに悲しい。
ゆえにかな
去って行ったポーランド人アンドレアの奏でる、哀切のバイオリンが、ただただ胸を震わせます。
胸が詰まるメロディです・・
僕はカーラジオのFMで、先にこのサウンドトラックを耳にしました。激しく胸を打たれて、その「テーマ曲」が使われているこの映画をと思い続け、本作を探し当てました。
バイオリニスト=ジョシュア・ベルが、愛器「ストラトヴァリウス・ギブソン /Wikipedia」にやっと出会えたときの エピソードの事もあり、
それも相まって、このドラマが尚更
「人生における数奇な運命」とか、
「人との出会いというものの愛すべき事件」を、僕に重ねて思い起こさせてくれます。
劇中で使用されたバイオリンは1713年製。2度の盗難の末に長く行方不明となっていたものです。
いつかこの楽器を手に取ってみたいと願っていた青年ジョシュア・ベル。
ふと、たまたまの立ち話の中で、「発見されたこの楽器がオークションにかけられているらしい」― のだと彼は知らされ、
この楽器はついにそれを夢見ていた若者の手にやっと渡ったのです。
ストラディバリウスも、本望でしょうね。こんなに美しい映画のためにその音色を捧げることが出来たのですから。
どうぞこのバイオリニストのこの調べに浸って下さい、
エンドロールで流れた「メインテーマ」はYouTubeで聴くことができます。海を見るアーシュラに、アンドレアがそっと寄り添って座ります。
もっと観られるべき名作ですね。
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ジュディ・デンチと マギー・スミスです。
世界の至宝の共演。
この老名優二人に憧れる英国俳優にして監督のチャールズ・ダンスが、おそらく若者ダニエル・ブリュールに自己を投影しているのでしょう。
三人はお互いに、若い頃からの「シェークスピア舞台俳優」同士。
親友と共に過ごした人生を振り返りつつ、撮影中は少女と少年の心に戻って、三人はこの海辺での奇跡の時間を生きたに違いありません。
お姉ちゃんは限りなく優しく、
妹はどこまでいじらしくて可愛い。
映画を観始めて 途中までは、
「レビューには、何かまた 面白いことも書いてやろうか」と・・頭の中ではそんな下書きも思い浮かんだのでしたが、
もうここには誰も茶化してはならない純愛がありました。
だから僕も 老姉妹の胸の痛みをそのまま受け止めて、レビューはここまでにします。
気がつくと泣いていました。
人は何度でも恋をしなくてはいけません。胸が焼けるほどの苦しみと葛藤を味わって、私たちも人生を全うしたいです。
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古いラジオからアンドレアのバイオリンが聞こえる。
せっかく生き残ったアンドレアの髪が・・
どうか戦争の遺髪となりませんように。
ああ、そしてこれから先、たぶん、バイオリンの調べにふれたり、ラヴェンダーの香りに振り返るとき、この映画のこと、僕は静かに思い出すでしょう。
僕らもあの入り日の残照に包まれながら、
彼ら三人の後ろに立ち、
きらめく渚に一緒に足を濡らしながら
この小さな物語のことをきっと思い出すでしょう。
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ピアノマン騒動もようやく収束し、実は彼はピアノが弾けないことがわかった。もちろん、ダニエル・ブリュールも本当は弾けない・・・
こんなにタイミングよく映画が公開されてるとは露知らず、ピアノマンに関しても、第二の若人あきら(我修院達也)くらいにしか考えていなかったものだ。そんなこんなで、また記憶喪失の映画なんだろうなぁ~と単純に予想していたら、大間違いだった。2人の大物女優、マギー・スミスはアカデミー賞候補6回(内2度受賞)、ジュディ・デンチはアカデミー賞候補4回(内1回受賞)という輝かしい受賞歴と実力の持ち主。この2人に手厚く看護されるポーランド人青年アンドレア(ブリュール)は、次第に英語を覚え、ヴァイオリンの才能も認められていくストーリー。
歳をとっても淡い恋心を抱くアーシュラ(デンチ)の演技には、とにかく心を揺さぶられる。そんな恋心などには全く感知できないほど純粋無垢な青年と、彼の前にドイツ語で話しかけてくるオルガ(ナターシャ・マケルホーン)が登場。彼女もまた謎めいた魅力を秘めていて素晴らしかった。こうして主軸の3人に1人の女性が中心になるのですが、オルガに恋してしまう医者やヴァイオリン(フィドル)を青年にあげてしまうアダムの存在にも感情移入させられるほど、細かな人物設定が秀逸です。町のバーや祭のときに必ず活躍するフィドル弾きアダム。ひょっとすると、自他ともに認める天才フィドル弾きだったかもしれません。「俺より上手い奴がいるのか・・・」と感じたに違いありません・・・
あらすじを読むと大体の時代背景がわかるのですが、全く予習せずに観ると、最初は全くわからず、徐々に時代が大戦前夜だということがわかってきます(小出しに出てくる用語は、ロカルノ条約、徴兵、宣戦、スパイ等々)。さらに青年はポーランド人。ナチに迫害されたピアニストの映画『戦場のピアニスト』を思い出してしまうほどです。また、姉妹の過去や現在の家族構成についても、徐々にわかってくる仕掛が施され、物語に集中させられました。
最も印象に残ったシーンは、姉妹で青年の髪を刈った後、アーシュラがそっと切った髪を拾う場面です。ここで終盤の展開を予想させられ、熱いものがこみあげてきました。
【2005年8月映画館にて】
おばあちゃんのアンチエイジング
老姉妹と漂流して身元不明の青年との淡い恋心を描いたメルヘンチックなイギリス映画。上品で趣味の良いお話に、ジュディ・デンチとマギー・スミス、ふたりの名優の抑えた演技が溶け合い夢物語が綴られる。デンチの少女の様な嫉妬と距離を保ちながら見守るスミスの対比が面白いし、微笑ましい。おばあちゃんの生きることに前向きな姿勢をしみじみと味わう。役柄上仕方ないのだが、ダニエル・ブリュールの印象薄いのが惜しい。
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