劇場公開日 2005年6月4日

「息を飲む、美しくも悲しいサウンドトラック」ラヴェンダーの咲く庭で きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0息を飲む、美しくも悲しいサウンドトラック

2023年10月31日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「素朴な琴」八木重吉

この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美くしさに耐へかね
琴はしづかに鳴りいだすだらう

・・・・・・・・・・・・・

うちには弾く者のいないバイオリンが一丁、そのまま置かれています。

バイオリンの音色は悲しいけれど、それを弾いてくれる人の不在は またさらに悲しい。

ゆえにかな
去って行ったポーランド人アンドレアの奏でる、哀切のバイオリンが、ただただ胸を震わせます。
胸が詰まるメロディです・・

僕はカーラジオのFMで、先にこのサウンドトラックを耳にしました。激しく胸を打たれて、その「テーマ曲」が使われているこの映画をと思い続け、本作を探し当てました。

バイオリニスト=ジョシュア・ベルが、愛器「ストラトヴァリウス・ギブソン /Wikipedia」にやっと出会えたときの エピソードの事もあり、
それも相まって、このドラマが尚更
「人生における数奇な運命」とか、
「人との出会いというものの愛すべき事件」を、僕に重ねて思い起こさせてくれます。

劇中で使用されたバイオリンは1713年製。2度の盗難の末に長く行方不明となっていたものです。
いつかこの楽器を手に取ってみたいと願っていた青年ジョシュア・ベル。
ふと、たまたまの立ち話の中で、「発見されたこの楽器がオークションにかけられているらしい」― のだと彼は知らされ、
この楽器はついにそれを夢見ていた若者の手にやっと渡ったのです。

ストラディバリウスも、本望でしょうね。こんなに美しい映画のためにその音色を捧げることが出来たのですから。

どうぞこのバイオリニストのこの調べに浸って下さい、
エンドロールで流れた「メインテーマ」はYouTubeで聴くことができます。海を見るアーシュラに、アンドレアがそっと寄り添って座ります。
もっと観られるべき名作ですね。

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ジュディ・デンチと マギー・スミスです。
世界の至宝の共演。
この老名優二人に憧れる英国俳優にして監督のチャールズ・ダンスが、おそらく若者ダニエル・ブリュールに自己を投影しているのでしょう。
三人はお互いに、若い頃からの「シェークスピア舞台俳優」同士。
親友と共に過ごした人生を振り返りつつ、撮影中は少女と少年の心に戻って、三人はこの海辺での奇跡の時間を生きたに違いありません。

お姉ちゃんは限りなく優しく、
妹はどこまでいじらしくて可愛い。

映画を観始めて 途中までは、
「レビューには、何かまた 面白いことも書いてやろうか」と・・頭の中ではそんな下書きも思い浮かんだのでしたが、
もうここには誰も茶化してはならない純愛がありました。

だから僕も 老姉妹の胸の痛みをそのまま受け止めて、レビューはここまでにします。

気がつくと泣いていました。
人は何度でも恋をしなくてはいけません。胸が焼けるほどの苦しみと葛藤を味わって、私たちも人生を全うしたいです。

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古いラジオからアンドレアのバイオリンが聞こえる。
せっかく生き残ったアンドレアの髪が・・
どうか戦争の遺髪となりませんように。

ああ、そしてこれから先、たぶん、バイオリンの調べにふれたり、ラヴェンダーの香りに振り返るとき、この映画のこと、僕は静かに思い出すでしょう。

僕らもあの入り日の残照に包まれながら、
彼ら三人の後ろに立ち、
きらめく渚に一緒に足を濡らしながら
この小さな物語のことをきっと思い出すでしょう。

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きりん