ヴァンダの部屋のレビュー・感想・評価
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~奪われていく空間と心~
舞台はリスボン郊外の立ち退きを迫られたスラム街。ヴァンダという女性の部屋を中心に描かれる。ドキュメンタリー作品でありながら大まかな筋書きはある。監督自身スラム街に2年も通い内容を推敲したそうだ。
ペドロ・コスタの作品は『ホース・マネー』(2016年)を鑑賞したことがあるが一貫して画面の構図は暗い部分が占めてフィクスで長回しで撮影される。ドキュメンタリー作品でも類を見ないロングショットはまるで観客との我慢勝負のような挑戦的な手法に感じる。さらに先の見えないゆっくりとした日常会話は三時間という長尺でも常に新しい発見ができる。
物語の序盤はどこか暗さに不自然さを覚えるかもしれない。時間帯の感覚は伝わらないし、うまい具合に表情にスポットライトが当たると演出の効果は否めない。ある程度の感覚で挟む自然光のシーンは余計強烈に感じてそのディティールに込められた神秘さに幻惑する。もしくは明順応の視覚効果だろうか。
ヴァンダはヘロイン中毒で友人と自分の部屋でたわいもない会話をしながら服用する。すでにその行為は中毒と言うより生活の一部と化したのだろう。
中盤から画面の大半を黒が覆うようになりヴァンダも薬物を吸う回数が増えてく。少しずつ焦点が絞れていく。同時に立ち退きの期日も迫り始める。それでもヴァンダは日常を捨てない。再開発計画に反対するそぶりはさほど見せないが、ただただ生活することこそささやかな反抗なのかもしれない。しかし、その願いもむなしく工事は進む。
以前、私は取り壊される一軒家を見た。段階としては最初の方なのかショベルカーで粗削りされていく。二回の和室を見て私は恥ずかしげもなく感動した。普段は外壁しか見ることのできない他者の家をスライスしたように横から見れる意外性と好奇心が掻き立てられ、勝手に壊される前の営みを想像してしまう。
しかし数日後、更地になったその場所を見ると突然寂しくなる。そこに住んでいた家族の痕跡が無に返る瞬間を目撃してしまったが故だろうか。この作品は最後まで工事が続いて終わるが、ヴァンダの周囲は大きく変化していく。画面の暗い部分は決して「黒」だとか「影」など安直な表現はできない。これは「闇」なのではないだろうか。再開発という身勝手な大義に埋もれるヴァンダの心境や薬物の影響でできた心の空洞、孤独感を表わしている。その闇は工事された一軒家のように空間ごと削り取られているため、あるように見えて何もない、触れているようで実感はない漠然とした「闇」が意図的に表現されている。
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