かげろう(2003)のレビュー・感想・評価
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活写とはこういうことを言う
公開当時――家でTVタロウ(現在は廃刊)という雑誌を熟読してた頃――から気になってた作品。
いやー、よかったです。夕方観た「耳に残るは君の歌声」とジャンルも一緒なら、長さまでほとんど一緒。でも、残り方が全然違う。
子供らしい末娘と、利発な長男。野生児で危ういけれど、早熟な青年イヴァン。知的で気丈なオディール。南仏出身で、落ち延びてきた兵士。
誰も彼も、キャラクター造形がしっかりしてる。原作がいいのかな。
エマニュエル・ベアール、いいですね。美貌と諦念、徒労と色香。ディズニープリンセスをそのまま実写化したみたいな顔してますよね。ギャスパー・ウリエル君。上手いですね。 この二人を筆頭に、束の間の「疑似家族」みたいな様相を呈するのが、なんだか少しわくわくするしドキドキするし、でも、人の世の儚さ。それも、戦時中。本当に、束の間、、
南仏の兵士に対して全くウェルカムでない長男が、母に請われてオペラを歌うシーン。ドイツ語でいい? 困ったな、まぁ仕方ない。 みたいなやり取りがいいですね。敵国の歌だもんね。そういう、ディテールもいい。イヴァンは兵士がオディールを犯すつもりだと思い込んで、一時は奇襲も考えるけど、郷里に家族がいる兵士もまた、イヴァンと同じように、オディールの洗った皿を拭き、身の上話をして、束の間の「疑似夫」のようになる――。
数百人のエキストラが銃弾の雨に倒れ、血の海が画面一面に広がる――、という演出でなくとも、戦争を描くことはできる。この映画に、戦友を喪って泣き崩れる兵士のヒロイズムのようなものは存在しない。かわりに、娘の隣に腰掛け、途方に暮れるベアールの姿がある。その後味は決して軽くないが、だからこそ、何よりも戦争の本質を突いた描き方になっている。
べアールの表情が魅せるフランス映画の矜持
1940年ドイツの攻撃でパリから脱出した子連れの女教師の、感化院を脱走した少年との束の間の触れ合いを描いたフランス映画の佳編。ドイツ占領下の過酷な状況は「禁じられた遊び」「ルシアンの青春」などの作品と同じだが、これは時代背景より主人公の女性に焦点を当てた女性映画の純度が高い。それゆえ時代を超えた普遍性がある。年上の未亡人を演じるエマニュエル・べアールの揺れ動く女性心理が、丁寧で細かい表情変化で説得力を持ち、14歳の長男とカエル遊びに夢中の長女の設定が程よい絡みで、二人の関係を刹那的に描く。対して少年役のガスパール・ウリエルに、幼さゆえの危うさがもう少しあれば良かったのではないか。人間ドラマと云うより、べアール主演の女性映画としての価値は高い。
オーディールを妻として守らんとしたイヴァンの成長に目を奪われました
《ネタバレ》です
戦時中、フランスの田舎を避難していく母子の数日の物語。
秀作です。
フランス映画は台詞がしみます。言葉に含蓄があります。そして度々返事をしない母の無言がまた、女として母として窮地に立たされている彼女の呆然とした心情をとてもよく表しています。
息子フィリップ。
父の戦死を子供ながらに受け止めて母親を支えようとする息子フィリップの健気さに、胸が締め付けられるんですよ。
僕はいつしか「戦死した父親目線」でこのフィリップを見ていたかもしれません、フィリップをねぎらい抱きしめてやりたい思いで涙がこぼれました。
大人の男のように母親を支え、母親を諭し、潜り込んだ空き家の手紙を盗み読みする母をたしなめるこの息子の言葉のくだりと言ったら!
でもまだ隠れて泣いているんだし、お母さんの胸にもたれかかりたい子供なんですよね。
そして、母子を助けたイヴァン(ギャスバー・ウリエル)の若いこと。無鉄砲な若者の落ち着きのない動作の演じ方は天才と思います。
育ちが悪くて家庭生活も知らないこの粗野なイヴァンに座って食事をすることや、文字の書き方や、そして矯正施設での男の体しか知らなかったイヴァンに・・
教師であったオーディールに「器用だ」「賢い」と生まれて初めて褒められたのであろうイヴァンのステップと背中に皆さん気付きましたか?イヴァンもね、本当はお母さんをまだまだ必要としていた17才の子供だったのですよ。
暗転の最後はつらい。
“かげろう”の日々は過ぎ去る。
その青年イヴァンの死を伏せて
我にかえって「娘カティはどこ」と聞く母親オーディール。
“女”である自分を保留し、“妻”であった自分を諦め、なんとかして残された子供たちを守らなければならない我に戻った“未亡人”の母親が、たった独りそこに残されて映画が終わります。
「ひまわり」とか「禁じられた遊び」とか、そして「この世界の片隅で」とか、
地味で目立たないけれど庶民の生活を追い詰めていった戦争の罪と悲しみの姿ですね、これ。
一生忘れられない作品となりました、
kossy さんオススメありがとうございました。
イヴァンは、ジャン・デルマスだったんですね。
エマニュエル・ベアール
一面に広がる麦畑と緑いっぱいの森、そんな田舎の田園地帯にもドイツ軍は爆撃してくる。もぬけの殻となった村のある家に避難し、3人家族と一人の青年という奇妙な関係を続けていくが、他人の家で生活するうちに理性や道徳観が失せていく様子がわかる。その間にも、子供たちはイヴァンを慕い、良好な関係を築いていったが、人間関係は徐々に変化してゆく。
唐突に「妻にしたい」と言うイヴァン。理性で感情を押さえ、文盲の彼に文字を教えるオディール。そのまま4人で生活を過ごし、幸せな一時を過ごせそうな予感がした途端に、フランス軍兵士二人が村にたどり着いた。
官能的な描写はほんのちょっとだけ。むしろ、『かげろう』という邦題に示されるように若者の短い命を表現したかったのであろう。ラストが駆け足で流されていくので、観終わってからジワリとくるパターンだ。「あっさりしすぎ」とも言う・・・
この映画を観てジュネが『ロング・エンゲージメント』の主役に抜擢したといわれるウリエルと、ベテラン女優のベアール。子役の二人も名演技だ。カエルと遊ぶ女の子クレメンス・マイヤーが可愛い。
映像の美しさ、登場人物の心の機微が素晴らしい
エマニュエル・ベアールがただ妖艶なだけでなく、戦争未亡人で子供2人を守りながら母として(父としても)重圧に耐えうるけなげな女性を力演しています。彼女達はドイツ軍の爆撃から逃げる最中に、偶然助けられた17歳の青年と森深い空屋敷で、生き抜く為の共同生活をしていくことになります。最初こそ警戒心、猜疑心やわだかまりで大変な日々だったのですが、次第に彼に心を寄せ、気づけば鎧を脱いで女としても安らぎを求めるようになるのですが・・幾重にも畳み込まれた感情を持つ女性というこの複雑な生き物を今作品はまざまざとみせつけてくれます。
また、相手役の ギャスパー・ウリエルも引けを取らないほどに素晴らしい演技です。未熟で、激しさと繊細さを持つアンバランスな若者の姿が、観る人の胸が痛々しくなるほど。
原題「LES EGARES 」は“道を踏み外した人”とか“迷い人”という意味だそうで、この邦題は巧いと思いました。偶然の訪問者と戦争の終結と共に、この切り取られた楽園のような生活は終わりを迎えます。とても深い余韻を残す作品です。
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