イン・ディス・ワールドのレビュー・感想・評価
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初めて見る世界
たまたまその国に生まれたばかりに、過酷な運命を背負わされてしまう子供たちのなんと多いことか。本作はパキスタンのアフガン難民キャンプからロンドンへ亡命する少年のドキュメンタリー・タッチのロード・ムービーだ。
タイトルから解るとおり、主人公ジャマール(実際のアフガン難民の少年を起用)は、生まれてから難民キャンプを出たことがない。それなのに彼はいきなり6400キロも離れたロンドンまで、正に命がけの旅をすることになる。旅の途中で彼らはいかがわしい“運び屋”に会ったり、検問に引っかかって連れ戻されたり、暗くて狭いコンテナの中で40時間も絶えたりなど、それはそれは過酷な経験をする。途中で連れが死んでしまうという不幸に見舞われながらも、ジャマールは時に盗みを働いたりしながら、何とかロンドンに辿り着く。こうまでして求めた“自由と希望の国”は、果たして彼にとって本当に自由と希望を与えてくれたのだろうか?ロンドンで皿洗いの仕事をしながら日々細々と暮らす彼の姿は、余り幸福そうには見えない。
パキスタン→イラン→トルコ→フランス→イギリス、これが彼が辿った道程だ。砂漠地帯の中東からヨーロッパへ舞台が変わると、セピアがかった明るく乾いた映像が湿ったグレーに変化するカメラも秀逸だ。ジャマールが初めて観た世界(イン・ディス・ワールド)は、彼の目にどんな風に映ったのだろう。日本人が“娯楽と癒し”の為にする海外旅行とは全く異なる彼の旅。それでも雪を頂く山に見惚れたり、大きなアイスクリームを舐めたり、サッカーに興じたりと、時折15歳の少年らしい無邪気さをのぞかせるが、ロンドンのモスクで一心に祈りを捧げるラストカットの彼の顔は精悍な大人の顔だ。
実際のジャマールが撮影直後ロンドンに亡命(難民保護申請は却下されたが、特例で18歳までロンドン滞在を許された)できたのも、この祈りが心からの祈りだったからに違いない。
ウィンターボトム監督の詳細なリサーチと即興演出で臨場感あるリアルな難民問題の衝撃。本作がイン・ディス・ワールドから少しでも難民が減ることへの第一歩となれば良いと思う。
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