アンダー・サスピションのレビュー・感想・評価
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観客に容疑者を提供して犯人捜しをさせるのだが、最後が不満
総合点65点 ( ストーリー:65点|キャスト:75点|演出:75点|ビジュアル:70点|音楽:70点 )
誰が犯人かを観客に考えさせる作品らしい。結末の直前まで物語と演出は良く出来ていたし、出演者の演技も良かった。ただし突然の最後だけが不満。ここが良ければ点数もずっと高かった。
以下、かなりネタバレしていますので、まだ観ていない人は注意してください。
弁護士は妻をかばおうとしたから供述を始めたのだろうと思った。少女の写真は、おそらくは弁護士が撮影したもの。少女の写真を妻が発見して、13歳の姪に対してすら強い反応を示す異常に嫉妬深い彼女が、それで嫉妬して少女を殺したのかと弁護士は思った。その写真が警察に発見されたことを知った後の彼の突然の自白は不可解であり不自然であったし、警察の描いた台本に合致するような流れの供述を探しながらしているのを観たので、彼の供述とは逆に自分には彼が犯人とは考えにくかった。ジーン・ハックマンの演技が上手かったのでその仮定にたどり着くのは簡単だった。もしかすると妻がそれを撮影しておいて弁護士を罠にはめようとしているのかとも思ったが、それならば彼が妻を庇おうとはしないだろう。
しかし突然に真犯人が見つかり彼が釈放された後の行動は気にかかる。妻は自分を庇おうとして自白しようとした夫にすりよろうとするが、彼はそれを無視して長椅子に独り座ってしまう。自分が罪を被ってでも救おうとした愛する妻なはずなのに、何故彼は突然彼女を拒否したのだろうか。実は二人とも無罪だったのがわかって、突然に自分の行動の無意味さに気が付いて妻に対する愛情が醒めたとでもいうのだろうか。納得がいかない。
気になってインターネットを検索したら、次のようなものが落ちていました。
私は真犯人の可能性は、夫婦とそれとは別の第三者の存在を疑っていました。しかし映画は警察側も容疑者と提案していたようで、自分はそれには気が付いていませんでした。警察は強引な捜査で無理やり犯人を作り出そうとしているという意味での、少女殺しとは別の犯罪者としての役割しか考慮していませんでした。
『アンダー・サスピション』結末解説メールサービス
エイチティーティーピー://1yoshi.zero-city.com/html/undersuspition.htm
この作品は、観客にジーン・ハックマンが演じるヘンリー・ハースト(以下、弁護士) を疑わせると同時に、犯人は別にいるという可能性を想起させるように組み立てられています。
弁護士以外で最も疑わしいのは、モーガン・フリーマンが演じる警察署長のビクター ・ベネゼー(以下、警察署長)です。弁護士が指摘するように、彼は能力がありながら 司法資格を得ることができず、警察署長という役不足の地位に甘んじています。署長の上には警察本部長の椅子もあり、弁護士という"金星"をあげることで出世を狙っているようにも見えます。
彼は最近妻と離婚したばかりで、最初の登場シーンでは、引っ越しの片づけが済んでいない家の中から、パーティ用の礼服を探していました。これは、置かれた立場に彼が満足していないことを暗示するシーンといえます。
また、見つけた礼服を担いで車に乗り込むシーンには、道ばたの少女を眺めるカットもあります。非常に短いカットですが、これは警察署長もロリータ・コンプレックスだと錯覚させる仕掛けといえます。警察署長が本部長に対して取る態度にも、彼が決して署長で終わる気がないことを示す仕草が繰り返し登場します。
◇◇◇
こうして、観客の意識は、弁護士と警察署長の二人に集中します。ところが、この集中を攪乱するシーンが、後半になって登場します。
トーマス・ジェーンが演じるフェリックス・オーエンス刑事(以下、刑事)は、単に気の短い警察官として描かれています。彼が最初に登場するシーンでは、取調室の中で 容疑者を締め上げているカットがあります。前を通りかかった警察署長がブラインドを閉じて、取調室内を見えなくするのは、彼が自分の部下の性格を好ましく思っていないことが示されています。
こうして暗示された彼の性格は、弁護士の取り調べの中でも何度も暴発します。それは、彼の性格によるものと解釈できるのですが、あるシ ーンによって、観客の疑いは刑事にも向けることが可能になります。
それは、弁護士 の家の捜索に向かう自動車に、刑事が乗り込んできたシーンです。警察署長から捜査 を外すと宣告された後であるにも関わらず、勝手に弁護士の家に行こうとする彼の行 動には、彼こそ真犯人であり、捜索にかこつけて、弁護士が不利になるような証拠を発見させようとしているのではないか、と考えさせられるのです。現に、彼は自分が 見つけた写真を、別の刑事が発見したと偽って警察署長に報告します。
モニカ・ベルッチが演じる妻シャンタル・ハースト(以下、妻)が、家宅捜索に来た刑事と、申し合わせたかのように弁護士の暗室に行き、そこから写真を発見することで、 ひょっとすると二人は共犯関係にあり、弁護士を陥れているのではないかと考えられ ます。
セクシーな妻と若い刑事が不倫関係にあったとしても不自然ではありません。
弁護士と妻は、2年間も家庭内別居状態でした。いつしか妻が刑事と関係を持ち、二人で共謀して弁護士を追い出し、結婚しようと考えていると推理すると辻褄が合います。
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観客の疑念がふくらんで頂点に達した時、弁護士が突然自白を始めます。ここで、物語は最初の弁護士に容疑がかけられたところまで戻ってしまいます。やはり、弁護士が殺人犯だったのか…と観客は納得します。
ところが、そこへ最初の方で登場した女性刑事が再び登場します。彼女は、犯人を逮捕したと警察署長に報告します。今夜、 三番目の事件が起こり、犯行は防げなかったが、犯人を現場で現行犯逮捕した、というのです。
つまり、犯人は別人で、弁護士は犯人ではなかったのです。だとすれば、 弁護士が自供をしたのはなぜなのでしょうか?
家宅捜索で発見された写真は、間違いなく弁護士が撮影したものでした。彼は少女好みの性癖があったので、通りで見かけた少女に声をかけ、彼女たちの写真を撮っていたのです。
恐らく、彼自身は自分が被害者の写真を撮ったことがあったのを、はっきりとは憶えていなかったのでしょう。冒頭、弁護士の邸宅内のシーンに、壁に少女の写真が掲げられているカットがあります。これは、弁護士のロリータ・コンプレック スを暗示しています。
警察署長が写真を見せた時、弁護士は"あること"に思い至りま す。弁護士は最初から、妻が嫉妬深い性格であることを供述していました。彼は、二つの殺人事件に妻が関係しているのではないかと考えたのです。自分が撮影した写真を密かに見た妻が、被写体の少女を捜し出して殺害したのではないか、と。しかし、 弁護士には、愛する妻を警察に引き渡すことはできなかったのです。
彼は"私が殺した" と虚偽の供述をして、妻が逮捕されることを回避しようとしました。"シャンタルが ここまで徹底的にやるなんて。まさに敵扱いだ。私は滑稽な存在だよ"というセリフに、 弁護士の心情が凝縮されています。
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この作品は、すべて観客を誤った結論に導くように作られています。シナリオだけで なく、キャスティング、フラッシュバックを使った演出いずれも、その目的のために 用いられています。
登場人物が全員が何からの思い違いをします。それは観客にも伝 染して、思い違いを促すようになっています。この作品はそのために、結末が理解できない人を生んでしまう、という副産物を生んでいます。
しかしながら、すべてを理 解できなかったとしても、"謎に翻弄される"というのは、映画や小説の一つの楽しみでもあるのです。少なくとも2時間近い間、現実から切り離されて、物語に身を委ねることができたとすれば、それはあなたに楽しみを与えたはずです。
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ところで、4人がそれぞれに怪しいと感じられるとすれば、"誰が一番怪しいと思ったか"で、観客の性格が判断できるかも知れません。
怪しく見える人は、その人が"一番 許せない"と持っていることをしている人です。登場人物はそれぞれ、次の事柄を代表するように描かれているといえます。
弁護士 見栄
妻 裏切り
警察署長 名誉欲
刑事 嘘つき
つまり、弁護士が一番怪しいと感じた人は、うわべを取り繕う人を許せない人です。
妻が怪しいと感じた人は、裏切りに対して厳しいことから、忠誠心が強い人であると考えることができます。お友達や恋人に、黙ってこの作品を見せて、性格判断をするのに使ってみると面白いかも知れません。(ただし、喧嘩の原因にならないようにご 注意ください)
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