劇場公開日 1947年12月30日

「アルコール依存症の人間の弱さを描いたワイルダー監督の重厚な人間ドラマ」失われた週末 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アルコール依存症の人間の弱さを描いたワイルダー監督の重厚な人間ドラマ

2020年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:TV地上波

喜劇の名手として師匠のルビッチ監督と共にアメリカ映画の歴史に名を遺すビリー・ワイルダー監督の初期の代表作。評価の高い「熱砂の秘密」(未見)「深夜の告白」に続くシリアスドラマで、5年後の名作「サンセット大通り」でも観られるように、アメリカ映画の特徴より脚本家デビューしたドイツ映画の暗く深刻な演出タッチが支配する。喜劇の演出は「七年目の浮気」を例外として、ジャック・レモンと組んだ「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」からで、監督キャリアの前半は喜劇作品ではない。喜劇の脚本が書けるから演出もできるのではないことや、シリアスな演出の土台があってコメディが描けることなどが考えられる。
レイ・ミランドに関しては、ヒッチコック監督の「ダイヤルMを回せ!」やアーサー・ヒラー監督の「ある愛の詩」しか観ていないが、このワイルダー作品が一番の代表作に違いない。作家になる野望に挫折した青年のアルコール依存症を巧みに演じて、その精神的に追い詰められる切実感が見事に表現されている。ワイルダー監督のカットバックを使用した演出が、その緊迫した数日間を重厚な人間ドラマに創作している。シニカルな視点を超えたワイルダー監督の人間愛が、人間の弱さを描き、本物の悲哀に到達した傑作と言っていいと思う。
 1983年 9月13日

Gustav