レ・ミゼラブル(1995)のレビュー・感想・評価
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それでも続く我等がベルモン道
ベルモンド特集のグランドフィナーレを飾るに相応しい、堂々たる大河ドラマでした。『レ・ミゼラブル』の舞台を第二次世界大戦中のフランスに置き換えたのは大胆だけど、原作のエッセンスを押さえながら大量の登場人物や複雑な構成を見事に整理し、『哀れなるものたち』の不思議な運命を描き切った、脚本・監督のクロード・ルルーシュの剛腕振りが素晴らしいです。後半からユダヤ人一家の脱出行がメインになるけど、ナチスの蛮行よりも、同胞を売り渡すフランス人の狡猾さ悪辣さを容赦なく暴いています。これは、大戦中フランスで行われたユダヤ人一斉検挙でフランス人が密告や裏切りで協力した事実とつながります。また、『ライオンと呼ばれた男』でもルルーシュと組んだベルモンドの映画人キャリアの集大成とも言える演技にも感服で、彼以外のキャストは考えられません。彼自身の人生の風雪が深く刻まれた顔には、厳しい表情もあればいつもの明るい笑顔もあり、千変万化です。語り部ルルーシュが紡ぎ出すお話しと、力むことなくスッと役柄と一体になっているベルモンドが繰り広げる絵巻物を堪能できた至福の三時間でした。カメラが役者と一緒に激しく回転するラストシーンには、うっとりしました。四年にわたり、ベルモンド作品を再発見し、提供してくれた江戸木純さんに、一映画ファンとして心より感謝とエールを贈ります。
「自分はジャン・ヴァルジャンでコゼットだ」
ベルモンド傑作選のグランド・フィナーレにこの作品があって感謝です。「レ・ミゼラブル」をこれほど大胆に複層的に再構成した映画を見ることができて嬉しく感動しました。ベルモンドが三役を演じ、彼の舞台俳優としての素晴らしさを肌で目で耳で感じることができました。
ベルモンドの役は文盲ゆえ、「レ・ミゼラブル」をもっと読んでくれとせがみ、文字が読めるようになって牢獄の中で今度は一人で読み「コンマ」「ピリオド」とその都度、丁寧に声に出す姿は、涙なくして見ることができませんでした。「文字の読めない庶民が善」「無学こそ善である」はイタリアのマンゾーニの「いいなづけ」にも通底している考えのようです。
国民国家も大文字書きの文学史も批判の対象となって久しく、今では大時代的で古臭いのかも知れない。でも国民文学、「大きな物語・小説」の古典があり誇りにしてそれを学校で必ず勉強する機会が与えられている国を、素朴過ぎるとは思うけれど羨ましく思いました。フランスが「レ・ミゼラブル」なら、イタリアには「いいなづけ」、スペインには「ドン・キホーテ」があり、英国にはシェークスピア、ドイツにはゲーテ、シラー、トーマス・マンがいるんだなあと。体力と視力は大丈夫かと思いつつ、古典の再読を夢想しました。
おまけ
「愛と哀しみのボレロ」を監督したルルーシュだから、いろんな人々が出会い関わり助け合い或いは命を失いという大河ドラマになるんだと納得。第二次世界大戦を背景にすることで、「ああ、無情」が普遍的な誰にも当てはまる「レ・ミゼラブル」という物語になる。古典や国民文学をこのように生き返らせる力が今の時代、とても求められているように思った。
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