「裏切りの犬」レザボア・ドッグス sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
裏切りの犬
もう20年以上前のことだが、この作品と『パルプ・フィクション』を観た時の衝撃は今でも覚えている。
とにかくカッコイイの一言につきる。
タランティーノ監督はゾットするような残虐なシーンとユーモラスなシーンの組み合わせが本当に絶妙だ。
冒頭はひたすら8人の男たちのくだらない会話のやり取りだ。
マドンナの曲に対する卑猥な考察や、ウェイトレスに渡す1ドルのチップの出し惜しみなど、あまりにも幼稚な彼らのやり取りに苦笑してしまう。
が、彼らが堅気の連中でないことは空気感で分かる。
彼らはこれから綿密に立てられたダイヤ強盗の計画を実行に移すのだ。
それぞれにカラーで呼ばれる彼らの姿と、ひとりひとりを際立たせるオープニングのカッコよさが印象的だ。
が、シーンが変わるとオープニングのカッコよさはどこへ行ったのか、血まみれで泣き叫ぶオレンジとそれを必死で宥めるホワイトの姿が映し出される。
どうやら計画は失敗したらしく、集合場所の倉庫へたどり着いたのは彼らとピンクの三人だけだった。
まるで待ち伏せをしていたかのようなタイミングで警官が現れたことから、彼らはメンバーの中に裏切り者がいたことを確信する。
映画は時間を遡って何が起こったのか、そして裏切り者は誰なのかを明らかにしていく。
この時間軸を入れ替える手法は『パルプ・フィクション』で最も成功しているように感じるが、この作品でも実に効果的だと思った。
疑心暗鬼にかられる3人の前に、真っ先に発砲して現場を混乱させた張本人のブロンドが現れる。
とにかくメンバーの中で一番イカれた彼は、ひとりの警官を人質として連れて来る。
やばい展開になるのは目に見えているが、胸糞の悪くなるような描写の後にスカッとするような展開が待っているのもタランティーノの作品の特徴だと思う。
ブロンドは警官の耳を削ぎ落とし、ガソリンをぶっかけて火をつけようとするが、その直後に蜂の巣にされる。
彼を撃ったのはオレンジ。
ここで裏切り者が死にかけのオレンジだったことが分かる。
おとり捜査官である彼が、メンバーに取り入るために売人の小話を暗記するシーンの組み立てはやはりうまい。
とにかくテンポ感の良さがこの映画の魅力だ。
オレンジがブロンドを撃ったことで、物語は急展開を見せる。
オレンジはブロンドが警官と自分を殺してダイヤモンドを持ち逃げするつもりだったと話すが、後から合流したエディがそれを真っ向から否定する。
エディとブロンドはかなり付き合いが長く、しかもブロンドはボスであるジョーの恩人でもあったのだ。
そこへ現れたジョーも直感でオレンジが裏切り者であると決めつける。
しかしホワイトはその判断は間違っていると、必死にジョーを説得しようとする。
逃走中にお互いの身の上話をしたことで二人の絆は深まっていたのだ。
このあたりの二人の関係がもっと掘り下げられていれば、衝撃のラストがさらに印象深くなっていたかもしれない。
銃の乱打戦になり、エディとジョーは即死する。唯一戦闘に参加しなかったピンクだけがそそくさとダイヤモンドを持って逃走する。
が、おそらく待ち構えていた警官に捕まえられたことだろう。
最後に何故オレンジは自分が警官であることを打ち明けてしまったのだろうと考えさせられる。
彼もまたホワイトに情が移り、罪悪感を隠しきれなかったのだろうか。
それとも別の罪悪感から自分も裁かれることを願ったからなのだろうか。
彼は逃走中に自分を撃った一般人女性を射殺してしまっている。
物語的には最悪なラストではあるものの、いつまでも記憶に残る最高のラストシーンだったとも言える。