「名曲に国境はない」リリー・マルレーン TRINITY:The Righthanded DeVilさんの映画レビュー(感想・評価)
名曲に国境はない
第二次大戦中にドイツで流行し、対戦相手の連合国側でもヒットした名曲『リリー・マルレーン』。
同曲をヒットさせた実在の歌手、ララ・アンデルセンの自伝をベースにしながら、原作をかなり逸脱した内容といわれるこの作品、一方で史実も踏まえた上で描かれている。
ナチス政権の重鎮ゲッベルズに毛嫌いされ歌が放送禁止になったのは事実で、後を絶たない兵士からのリクエストに応えるため、本国から遠く離れた最前線で、放送の終了直前の毎夜21:57に目立たぬように放送したことが敵国でも流行する原因に。
西側ではマリーネ・デートリッヒの歌唱が有名だが、そのきっかけも前線慰問の際、ドイツの放送でメロディを覚えた兵士が口ずさむのを彼女が耳にしたことから。
ユダヤ系音楽家と親密な関係にあったことで、政権のアイドル的地位からヒロインが転落する構図も実話どおり。
ユダヤ人の恋人ロベルトを前に、臆面もなくアーリア系の血統を自慢し、曲のヒットで富や人気を手に入れたことを無邪気に喜ぶ一方、恋に一途で危険を承知の上でナチス政権を裏切る行為に手を貸す主人公ヴィリーの多面性や悲劇性を名女優ハンナ・シグラが熱演。
L・ヴィスコンティ作品やハリウッドでも活躍したイタリア出身のジャンカルロ・ジャンニーニやA・ヘプバーンの最初の夫メル・ファーラーら名優が脇を固めている。
ナチスの若手将校(ゲシュタポ?)役を演じたウド・キアは主人公に向ける不信感露わな眼差しが強烈。今年公開の『お隣さんはヒトラー?』でも衰えぬメヂカラでヘルツォーク役を好演している。
最後に男気を示してナチス高官に逆らい、前線送りにされるタシュナー役のハーク・ボームの演技も印象的。
役名忘れたけど、車両の後部座席に座るユダヤ人組織の要人を演じてたのって、ファスビンダー監督自身?!
戦争がもたらす悲劇というより、人種差別主義者をリーダーに択べば起こり得る惨事を、引き裂かれる運命の男女を軸に描いた作品と捉えるべきかも。
時折挿入されるS・ペキンパーを彷彿とさせる激しい戦闘シーンや、余韻の残らない素早い場面転換が作品に緊張感をもたらす演出は独特。
一方で、場面にそぐわないBGMが多用されている点が残念。