夜よ、さようならのレビュー・感想・評価
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裏社会からの脱出を図る女性の苦難のノンフィクション映画の衝撃度と女性映画としてのフランス映画
パリの娼婦街を舞台に、ひとりの娼婦が自由な生活を求めてヒモの元から脱出する話を力まず淡々と描いたフランス映画の衝撃作。原作は、女流作家ジャンヌ・コルドリエが経験した5年間の娼婦体験をもとにしたノンフィクション小説で、1976年に発表したもの。そのため、女性の立場から見た娼婦の世界が、そのものの姿で現れた価値がある。
話が娼婦街の出来事だけに、ショッキングなシーンが多い。例えば女性から罵られて興奮する男や一見紳士風ながら女性の手を何度も嚙むサディスティックな男など、客の様々な性的嗜好が描かれている。しかし、それらは強調された演出のものでは無い。ヒモ役で出演しながら監督も兼ねたダニエル・デュバルには、特に技巧的な演出は感じられないが、この人間の裏社会を興味本位で面白くさせようとはしていない。終始落ち着いたタッチで一つひとつのシークエンスを組み立てながら、主人公マリーの心の変化を見詰めている。これがデュバル監督の狙いであろう。率直な語り口による裏社会から自立する女性の苦しみが、今日的な女性映画のテーマとして浮かび上がる。
そして、同時にヒモ男の世界も客観的に丁寧過ぎるくらいに描かれている。マリーと仕事仲間マルーが独立して仕事をすれば、凶暴な男を雇い部屋で暴れさせる。この残虐さと、ふたりが強盗に遭った時の徹底的な復讐に見るヒモ男の自分勝手な欲望の我儘さ。
しかし、この映画の一番の見所は、マリーを演じたミウ・ミウという女優の体当たりの演技であった。今フランス映画界で最も注目される女優と聞いたが納得の熱演であり、無意味に嘆くことの無いマリーの精神的な強さを秘めた内面を見事に表現している。唯一、好青年に見えた男とのささやかな出会いが、突然の裏切りにより絶望と化すマリーの怒りと嘆きには、痛々しさと同情を感じてしまった。
ヒモ男に恋した女性が人生をやり直そうとする、再起に至る実話の興味深さ。力まず嘆かず、あくまで自然に人間の姿を捉えた率直な語り口に、主演ミウ・ミウの好演。当事者でしか知り得ない裏社会の実状の告白も兼ねたノンフィクション小説の衝撃度だけではないフランス映画である。
1980年 8月12日 ニュー東宝シネマ1
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