劇場公開日 1949年4月

幽霊と未亡人のレビュー・感想・評価

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4.0幽霊と未亡人

2026年1月23日
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鑑賞方法:DVD/BD

ジーン・ティアニーが若く美しい未亡人、レックス・ハリスンが幽霊船長役を演じた名匠ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督(「三人の妻への手紙」、「イヴの総て」、「裸足の伯爵夫人」、「野郎どもと女たち」、「去年の夏突然に」、「クレオパトラ」)によるロマンチックファンタジーの名作である。
夫に先立たれ義母や義姉との折り合いが難しくなったルーシー(ティアニー)が、幼い一人娘(ナタリー・ウッド)と家政婦を連れてロンドンの邸宅を飛び出し、ドーバー海峡に程近い静かな寒村にやって来るところから物語は始まる。そんな彼女の唯一の夢は、海を見下ろせる家に住むことなのだった。程無く彼女の望みどおりの海辺の一軒屋が見つかる。だがこの屋敷、その立派な佇まいとは裏腹に、どういう訳か家賃も安く、不動産屋もなかなか勧めようとはしない。何故なら、たまに借り手が現れるものの必ずしや最初の一晩で、皆逃げ去るようにこの屋敷から出て行くからなのだった。それもその筈、この屋敷に未練を残したまま急死した元持ち主のグレッグ船長(ハリスン)が度々幽霊となって姿を現しては、やって来た人々を追い払っていたのである。気丈なルーシーは、そんな噂話、不動産屋の忠告を物ともせず、この屋敷に移り住む。いつも通り、最初の晩からグレッグ船長が現れては、ルーシーを驚かせ始める。非常に気難しい性格の皮肉屋で、甲高い声の早口で一気に捲し立てる変わった幽霊だ。
厄介なのは、傍からは彼の死因は自殺だと思われていたのだが、船長自身の説明による真の死因は、たまたま窓ガラスを締め切った状態で、ガス・ストーブを点けたまま眠り込んでしまった事によるガス中毒死なのであり、これがまた船長をイラ付かせ、且つ死んでも死に切れない理由の一つなのだった。
その無国籍的な風貌から滲み出る独特のエキゾチズムと、英国出身ならではの格式、貫禄とが見事に融合した稀有の名優レックス・ハリスンのみにしか演じられない不思議なキャラクターである。他の役者では決して実現し得なかったであろうと確信し得るこの映画の持つ独特な深味は彼の存在に依存するところが極めて大きい。一世一代の当り役であった「マイ・フェア・レディ」のヒギンズ教授役といい、本作のグレッグ船長役といい、共に他の俳優による別バージョンの存在など、映画ファンに想像すら抱かせない程の嵌り役であると言え、そもそもシナリオ自体がハリスン主演を想定して書かれたとしか思えないのだ。
映画の前半部では、「若い未亡人ルーシーにしか姿が見えず、また声も聞こえない奇人の幽霊船長」と言うシチュエーションを大いに利用したユーモアたっぷりのロマンチック・コメディのスタイルが貫かれている。マンキーウィッツ作品ならでは練りに練った巧みなシナリオと粋なセリフ廻しによる優れた室内劇でもある。映画を観ている観客は、誰もが安心しながらこの二人の喧嘩騒ぎや掛け合いを楽しみながら見ているうちに、気丈に振る舞いつつも夫を失い孤独な世界に生きている彼女の心が次第に晴れていき、明るさと希望を取り戻し、それと同時にいつしか彼女にとって、グレッグ船長が友人を超えた彼女の人生の支えとなっていく、そんな過程をも意図も容易に受け入れて行くこととなる。
或る日、まともな収入が無く家賃の支払いもままならないルーシーを気遣った船長が一計を講じる。彼が生きていれば自分で書くはずだった七つの海を股に懸けた大冒険活劇のスタイルを持った自叙伝の執筆を、船長が口述し、彼女が筆記し、これを出版する事により生計を建て直そうというのだ。本作とは似つかわしい荒々しい海の男たちによる大航海時代の描写が、当然ながらフラッシュバック・シーン無しのハリスンのモノローグにより魅力的に語られていく。瞳を輝かせながら筆記していくティアニーの表情が美しい。深夜、時には明け方にも及ぶこんな二人の生活シーンが、静寂且つ情感豊かに描かれていき、作品のスタイルは、次第にコメディからメロドラマへと自然な変奏を重ねていく。
二人の協働作業により、ついに自叙伝は完成し、見事出版に漕ぎ着ける。しかしルーシーにとっては、二人の心が一つになればなる程、現世に生きる人間と所詮は幻である幽霊との関係がこれまで以上に強く意識され、これが新たな彼女の苦しみになっていた。
船長はルーシーに言う。『街へ出なさい。君はまだ若くて美しい。』
原稿を持参したロンドンのとある出版社で、偶然知り合った童話作家(ジョージ・サンダース)が、彼女に一目惚れしたことがきっかけになり、次第に彼女もこの童話作家を恋するようになる。グレッグ船長や家政婦の心配をよそに、彼女はこの余りにも調子が良過ぎ、胡散臭い童話作家との盲目的な恋に落ちていく。ハリスンとは相反して深味の無い、下心丸見えの安っぽい現実的な色男を好演するサンダースも実に嵌っている。
悲劇的なこの恋の結末を予期しつつも、船長は、自叙伝の作者が彼女自身であり、全てはこの家に住む彼女の想像がもたらした産物であることを眠っている彼女に教え、また彼との生活の全ての記憶を彼女から消し去ったのだった。そして深い眠りに就いている彼女に永遠の別れを告げ、船長は立ち去ったのだった・・・
やがてルーシーを絶望的な悲劇が襲い、失意のどん底に突き落とすこととなる。
そして本当の孤独と静寂の日々が彼女に訪れる。消されていた筈のグレッグ船長の記憶。しかしながら彼の肖像画や多くの遺品に囲まれながら生活する彼女が、何度も見せる誰かを待ちわびているような表情が悲痛で悲しい。存在しない失われた人の品々に囲まれながら自らの人生を生きていく彼女の姿が哀しい。
作品構成上の起承転結の、承から転、そして結へと移行していく上記各シーンにおけるドラマチックな演出は、映画史上最高レベルの鮮やかさであると断言出来、マンキーウィッツの巧みな演出力に加え、バーナード・ハーマンの繊細且つ劇的なサウンドが後押しすることにより、実現されている。
この映画におけるハーマンの楽曲は、前半のロマンチック・コメディに当たるシーンでは、非常に軽妙でユーモラスであり、「市民ケーン」の前半部分を想わせる雰囲気があるのに対し、メロドラマへと移行し、孤独だが力強く、数十年間に渡り余生を過ごすこととなるルーシーを描くシーンでは、「めまい」や「マーニー」のサウンドトラックにも似た重厚な響きを聞かせてくれる。
終盤近くのシーンで、成長した一人娘が婚約者を連れて、年老いたルーシーを訪ねて来るシーンがある。そしてこの時、娘の口から、父親が居なくて寂しかった少女時代に父親代わりに夜毎彼女に優しく語り掛けては、見守ってくれていたのがグレッグ船長だったことを、ルーシーと映画を観る観客は初めて知らされることとなり、胸が詰まる。
作品の大半は室内シーンであり、数人の役者による会話のみによって構成されていると言ってもいい。それにも関わらず、映画は素晴らしいイマジネーションに満ち溢れており、観る者の映画的な想像力を最大限に掻き立ててくれる。
映画におけるシナリオの重要性を、これ程までに実感させてくれる優れた作品はそうそう有るものではない。

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ナオイリ

3.5わぉ・・・

2024年7月22日
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KIDOLOHKEN

4.0幽霊らしくない幽霊と、未亡人のラブ・ストーリー。

2020年7月2日
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カラー映像だったら、とても美しい景観の作品だったはず。
余計な説明もなく、完結なストーリーは見やすい。

男らしい幽霊と気丈とも言える未亡人の大人な恋愛ってステキ!

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miharyi

5.0カモメ荘

2019年6月10日
Androidアプリから投稿

亡き夫に対する 軽い失望(センスない建築士か?)
があった、未亡人ルーシーが 事故物件「カモメ荘」に惚れ込む
持ち主(設計者)が 幽霊でも、
その時点で「見解の一致」である
(幽霊も 嬉しい)

マンキーウィッツ監督が 巧みな展開と語りで、
ミステリアスな ロマンチックコメディーとして、
完成させた
唸るばかりである
台詞回しも 洗練されている

当時 モテモテだった、旬のティアニーとハリソンを迎え、勢いも感じる

ティアニーの衣裳だけ、当時の夫 カッシーニが担当している
デザインだけでなく、彼の女性を見る目の確かさ、
センスの良さ、みたいなものも 実感させられる
(でも やっぱり、後日破局)

若きハリソン、ハンサムだった
その彼が演ずる グレッグ船長が、魅力的
海を愛し、詩を語り、生計のアイディアを考え、
ルーシーを ルチアと呼んだりする…
(カモメ荘も 建てた )
まぁ、女心 鷲掴み!

幽霊に 魅了されると、問題発生なのも
洋の 東西を問わない…
切なさが また、ラストを盛り上げる…

レクシー(レックス+セクシー)と 呼ばれたハリソン、この後 事件発生で FOXを追放されたりしてる
女性達は、彼に グレッグ船長を見た
訳では ないよね!?

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jarinkochie
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