「俳優トリュフォーがもたらす慈愛の深さ」野性の少年 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
俳優トリュフォーがもたらす慈愛の深さ
ヌーヴェルバーグを代表する映画監督トリュフォーが遺したこの秀作は、とある森で見つかった野性の少年と医師との関係性の物語である。生まれて間もなくなんらかの事情で捨てられ、言葉はおろか愛すら知らぬまま成長してきたこの少年。彼と対峙して忍耐強く教育を施そうとする医師をトリュフォー自身が演じているのだが、冷静でありながら慈愛に満ちた存在がなんとも胸をうつ。この演技に感銘を受けたスピルバーグが「未知との遭遇」にぜひ出演してほしいとオファーを出したのは有名な話。トリュフォーも「演技をするのではなく、私このままの状態でいいのであれば」という条件付きで承諾したという。どちらもコミュニケーションに関する物語であり、いかにして両者が関係性を築き上げるかにおいて、俳優トリュフォーは鍵であり、核であり、作品の精神ともいうべき存在感をなしている。52歳の若さで亡くなったトリュフォー。今年の10月で没後37年となる。
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