「皆既日食の闇の中に隠された母の愛」黙秘 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
皆既日食の闇の中に隠された母の愛
キャシー・ベイツがオスカーに輝いた『ミザリー』の原作者はスティーヴン・キング。
キングがベイツの為に書き下ろしたという小説を映画化した1995年の作品。
本作もキングの非ホラー作品。
『ミザリー』のようなサイコ・スリラーでもない。
しかし、これぞサスペンス!…と思わず膝を叩きたくなるほどで、本当に話が面白く、グイグイ引き込まれる。
NYでジャーナリストとして活躍するセリーナの元に、母ドロレスが殺人事件の容疑者となっているという連絡が届く。
久し振りの帰郷、久し振りの再会。
事件について、黙秘を続ける母。
母ドロレスは、町の金持ち夫人の家政婦として働き、その夫人を殺害した疑い。
目撃者、状況証拠、さらには夫人はドロレスに遺産を。動機は充分。
しかし、長年仕えて来て、何故今頃…?
実はドロレスは、以前も別の事件で殺人の疑いを掛けられた事がある。
皆既日食が起きた20年前のある日、ドロレスの夫が不審な死を遂げた。
事故死とされているが、当時事件を担当した警部は今も疑っている。今回の事件も。
ドロレスが関わる今回の事件と20年前の事件。
黙秘を続けていたドロレスだったが、やがてセリーナは母の口から、自身にも関わりある事件の真相と秘密を知らされる…。
キングがベイツの為に書いただけあって、ベイツがそれに応えた熱演。
母と娘の物語でもあり、セリーナ役のジェニファー・ジェイソン・リーも熱演。
演技派/実力派である二人の女優の演技合戦は本当に見もの。
クリストファー・プラマー、デヴィッド・ストラザーンら男性陣は憎々しさ際立つ。
過去と現在が巧みに、鮮やかに、重層的に交錯。
過去の事件の真相が明かされるシーン。皆既日食の雰囲気も相まって、圧倒すらさせられるほどインパクトのあるシーンとなっている。
見応えたっぷり、テイラー・ハックフォードの重厚な演出も素晴らしい。
過去と今回の事件、真相は意外と呆気ない。複雑に入り組んでいるとか、あっと驚くトリックが仕掛けられてる訳でもない。
が、その真相に隠された秘密…。
痛ましいほど。
特に、娘が関わる過去の事件は。
事件は、女たちの悲しみが浮き彫りにされる。
不審な死は不幸な女の友達…というある人物の台詞は戦慄すらさせられた。
確かに法的には間違ってるかもしれない。某天才変人警部なら決して見逃しはしないだろう。
でも、人としては…。
事件の秘密の中に隠された、母の愛。
皆既日食の闇の中に、黙秘を通し続ける。