黙示録の四騎士(1921)のレビュー・感想・評価
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平和主義を説く啓蒙と見世物映画の渾然一体にあるサイレント映画の使命
サイレント映画の美男スター、ルドルフ・ヴァレンティーノの主演映画と思って観ていたら、見所は全く違っていた。スペインの文豪ビセンテ・ブラスコ・イバニェス原作の映画化が訴えるのは、壮大な平和主義であり反戦思想である。舞台が新大陸アルゼンチンから旧大陸のフランスへ進展する大作。平和主義のメッセージ性が誇張された前時代の単刀直入な映像表現であり、当時の観客に合わせた単純さを批判する積もりはない。それよりも、監督に起用されたのが若干26歳のレックス・イングラムという驚きである。8歳でアイルランドからアメリカに移住して俳優から23歳で監督デビューしたイングラムは、既に10作以上の作品を物にしている名匠であった。
新大陸アルゼンチンで資産を築き上げた男の子孫が、仏独に分かれて第一次世界大戦が始まる。フランス側のフリオ・デスノイエルズ(ヴァレンティーノ)は、画家志望でアパートの一室を裸女でいっぱいにしている。その美男振りも評判で、人妻マルグリート(アリス・テリー、イングラム監督夫人)が彼と親交を結ぶ。それが夫ローリエにばれるところが、如何にもサイレント映画らしい。父マルセロは、田舎のお城を買い取り高級な家具調度品を蒐集するブルジョワ生活を享受するが、戦争によってドイツ軍に占領される。運命の悪戯か、ドイツ軍の将校のひとりに彼の実の甥がいて、それはドイツの子孫が勉学に勤しんだ結果という皮肉である。それから紆余曲折あり、フリオの友人でロシア人のチェルノフが現れ、ヨハネ黙示録の啓示を伝える。これが、主題と直結する。四騎士が空高く駆けるシーンの幻想的な映像とオポチュニズムが入り混じった不思議な映像空間に言葉を失う。最後夫の元へ戻るマルグリートと決別したフリオが戦場へ向かう。この戦場シーンが素晴らしい。
見世物小屋から芸術表現の映画に変化して、あくまで娯楽性を優先した映画制作ではあっただろう。だが、このイングラム監督の作品にある平和主義の啓蒙思想が、一番、映画としてしっくりくるのではないだろうか。表現以上にその意図に何か神聖なものを感じてしまう。
1978年 10月30日 フィルムセンター
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