ミッシング(1982)のレビュー・感想・評価
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チリの9.11(1973年9月11日)
チリの社会主義政権転覆を目論んだアメリカが企てた軍事クーデターに巻き込まれたアメリカ人青年の悲劇を描くモキュメンタリー映画。
今となってはクーデターの背後にニクソン政権が絡んでいたのはいわば公然の秘密だが当時はセンセーショナルな告発映画としてアカデミー脚色賞やカンヌ・パルムドールなど多くを受賞した話題作。
当時では真相未解明と言うこともあったのだろうが劇中でエド(ジャックレモン)も「新事実を告げられるたびに振り出しに戻る」と愚痴っているとおり大使館の見せかけだけの捜査協力を延々と描くだけなので国家の陰謀と対立するサスペンス映画と期待すると物足りないかもしれません。
見どころはコンサバティブで若い息子夫婦に高圧的な父親エド(ジャックレモン)が事件を追うにつれ自身の独善性に気付いて変貌するところでしょう、エドのキャラクター設定は政府を盲目的に信奉する多くの保守系国民の典型にも映ります。ジャックレモンさん、ややもすると喜劇役者と見られがちですがシリアスな演技派、好演でしたね。
アメリカの中南米工作とその機関
チリのクーデターに巻き込まれた息子の行方を
その嫁と探しまわる70年代の平均的な保守系アメリカ人の父親を
ジャック・レモンが好演
フォード財団顧問に 息子の死を告げられた瞬間
小さくしぼんでしまうような姿に 胸が痛んだ
そして闘い続ける息子の嫁に
新たに芽生える尊敬の念…
難民申請でごった返すイタリア大使館で
隠れるようにしていたパリスに(←通訳、仲介者か?)
チリ軍が独断で アメリカ人を殺せるかどうか… と、問いかけてみる
あの日 バスに乗り損なわなければ
ベスも一緒に連れ去られていたのだろうか
アメリカに戻っても追及の手を緩めない彼女を見て
彼等は しくじった… と、考えるのだろうか
重い話だが
近所の人達が回想するチャールズ拉致場面で
アヒルも一緒になのだが、不覚にも? 笑ってしまった
また あの夜ベスが見た、駆け抜ける白馬は何だろう
当時、父親や彼女は確証を掴めなかったが
現在では検証が進んでいて
アジェンデが大統領になってからの事柄を検索してみたら、その時系列だけ見ても
アメリカ政財界と軍の動きが強圧的なのがわかり ドキドキした
新聞に情報が全く載っていなかったことも描かれているが
チリの資産家で大手新聞エルメルクリオも所有の
アグスティン・エドワーズ・イーストマンが(も?)
アメリカにクーデター要求、国内では世論誘導したらしい
(不安を煽る、混乱させる、偽情報を流す… そしてクーデターを正当化させる)
チリでは彼のドキュメンタリーが作られた
アジェンデ政権は様々な工作をされ、人権無視のピノチェト独裁政権は延命させられた
そしてそれはチリだけではない
中南米があの国に好意的でないのが理解できる
南米チリでの行方不明
「君たちを告訴するぞ!」という最後のジャック・レモンの言葉。アメリカの民主主義を賛美するかのような締めくくりだが、一方でアメリカ民主主義のために犠牲となる市民の憤りをも訴えて民主主義の矛盾をも突いた社会派映画!
1970年に自由選挙による社会主義政権を獲得したチリ。これを不服とした富裕層や軍部は反発し暗殺事件が横行。そして1973年には軍部クーデターが勃発する(“9.11”とはアメリカ同時多発テロ事件を意味することがほとんどだが南米ではこのクーデターを指すことが多いとか)。映画で描かれているように、クーは静かに進行し、平和的に行われたかのようだが、戒厳令と大量虐殺も行われたのだろう・・・チャールズの妻ベス(スペイセク)が外出禁止時間に街を歩いてると、道端にころがってる死体を発見するシーンがぞっとする。
父親演じるジャック・レモンの息子は死んだのかもしれないと焦燥感。こんなチリにまで来て何をやってんだ!と嫁を罵るような気持ちもわかる。左翼思想にかぶれやがって・・・などと感じていたんだろうけど、結局は真実をさぐろうとするジャーナリズム精神が彼らに宿り始めるところも面白い。
今ではCIAの関与したクーデターだったことも公然と書かれているようだけど、アメリカ民主主義というのは国際警察たる帝国主義をも同居させているんだということだな。
社会派映画に主演するジャック・レモンのシリアス演技
社会派映画を多く手掛けるコスタ=ガブラス監督のアメリカ映画。主演のジャック・レモンと演技派シシー・スぺイセクのシリアス演技を観るべき作品で見応えはあるが、欲を言えば映画としての艶が欲しい。
国際的陰謀に巻き込まれれば、普通は泣き寝入り
総合:60点
ストーリー: 60
キャスト: 70
演出: 70
ビジュアル: 70
音楽: 70
中南米でクーデターが起これば、国家規模の謀略が裏にあるであろうことは当然予測できる。アメリカ軍人がたくさんいて大使館員がよそよそしい態度を取っていれば、アメリカが陰にいるのは当然予測できる。それなのに国家に個人が挑むということは、シュワルツネッガーやスタローンが出演していない限り勝つはずがないというのも当然予測できる。
というわけで全てが予測通りに物語が進み、意外性がありませんでした。世の中は普通は不条理なものなのだとしみじみ思います。不幸にして国際的陰謀に巻き込まれれば、残念ながら国家の利益のためには人の命も人権もとても安いものであるということです。真実が明らかになることも、国家からみれば小さな個々の正義がとおることもないでしょう。
最後のすぐにヴァンゲリスとわかる音楽は、エンディングに合っていたと思います。
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